排泄ケアと紙おむつ、これは切っても切れない関係にあります。
今回は紙おむつのリサイクルについて、民間企業を中心にした最新の取り組みについてまとめてみました。
2025年の段階では紙おむつのリサイクルは実証実験のレベルのものも多いですが、実際にリサイクルを始めている自治体もあります。
リサイクル技術を持つ民間企業を中心に、どのような企業が紙おむつのリサイクルに参画しているのか、技術的な特徴についても可能な限りまとめてみました。
大人用紙おむつの現状
大人用紙おむつの生産量は毎年堅調に増加しています。
生産量が増えただけではありません。種類も用途やニーズに応じてバリエーションが増えています。

フラットタイプとは、おむつカバーと一緒に使用する平面的なタイプのおむつです。交換が簡単で経済的で、自力でトイレに排泄ができない寝たきりの状態の方に使います。
パンツタイプは下着のようにはくタイプの紙おむつで、一人でトイレに行けるけど間に合わないかもしれない方が利用します。
パッドは、下着に直接つけたり、紙おむつと組み合わせて使います。これは、ケアをする側にもケアをされる側にもメリットがあります。排泄時にパッドの交換だけで済めば、外側のおむつを汚すことが少なくおむつ代の節約につながります
ケアをする側にとっても、パンツの着替えに時間がかからないですし、すぐに交換できるので、衛生的上のメリットもあります。
この図に見るように生産量が増えているのはパッドタイプです。
紙おむつの廃棄量の現状
生産量とともに紙おむつの廃棄量も順調に増えています。
別のページでもご説明しましたが環境省の資料によれば、年間約50~52万トンの紙オムツが国内で消費されています。
環境省推計では、2015年度で、一般廃棄物に占める紙おむつの割合は4.7~5.1%と推計されていましたが、2030年度には、一般廃棄物に占める紙おむつの割合は7.1~7.8%に達すると言われています。
厄介なことに、使用された紙オムツは、尿を吸収している分、重さが4倍に増えると言われています。つまり、ゴミとしては約200万トンの紙おむつが毎年排出されていることになります。
水分を吸って重たくなった紙おむつを運ぶのは大変な労力とコストがかかり、焼却炉の劣化も速くなり焼却炉を持つ自治体にとっても課題になっています。
紙おむつの構造
リサイクルの取り組みの前に、廃棄物としての紙おむつがどのような構造をしているのかと確認しておきましょう。
紙おむつは平たく言えば3つの素材が重なってできています。

高分子吸収剤(高分子ポリマー)というところが、尿を吸って水分を吸収できる素材です。これは石油化学プラスチック製品の一種で石油からできています。
この高分子吸収剤を、吸収シートやパルプで覆って肌触りを良くしています。これはパルプの一種で木材やなどからできています。
最後に防水剤があります。これは水分を外部に漏らさないようにする構造で、これもプラスチック製品の一種です。
このように水分を含んで外に漏らさないように出来ているため、廃棄された紙おむつは可燃ゴミとしては燃焼しにくくなっています。
このように層状構造をした紙おむつをリサイクルするには、高分子吸収剤とパルプをどのように分離して取り出すか、尿等で汚れたパルプやプラスチックをどのように殺菌処理して再利用するかが、各社の技術が問われるところです。
使用済み紙おむつは世界的な問題
高齢化社会の日本では、大人用の紙おむつの増加が問題になっていますが、紙おむつの廃棄は、実は世界的に見ても大問題になっています。
紙おむつは何と言っても手軽なので、アジア地域では子供用の紙おむつの需要が伸びています。
しかし、まだゴミの回収システムや焼却炉などのインフラが整っていない地域では、使用済み紙おむつは、最終的にはすべて埋め立てられています。
埋めてしまえば問題が解決するわけではありません。紙おむつ内のし尿に含まれる菌の繁殖が、土壌や水質汚染につながることが指摘されています。紙おむつのリサイクルは海外でも大問題になっています。
紙おむつのリサイクル:最新の取り組み
このように使用済みの紙おむつのリサイクルは、大きな課題であるわけですが、これまでに、様々な取り組みが行われています。ここでは主にリサイクル技術を持つ民間企業を中心に、自治体と実証実験が行われた取組についてご説明します。
ユニ・チャームと鹿児島県志布志市と大崎町
すでに実証実験から商業化への移行が進んでおり、実用化が早い企業取り組みです。
2016年以降、志布志市、大崎町、そおリサイクルセンター、ユニ・チャームが協定を結び、19年に覚書を締結。これまで4者で再資源化技術の実証実験と、モデル地区での分別収集を行ってきています。
2022年5月には、ユニ・チャームはリサイクルパルプを原材料の一部に用いた大人用紙おむつを生産し、「ReFF」ブランドで商品化しています。
志布志市と大崎町では、2024年4月から一般家庭からの使用済み紙おむつの全域回収を開始しました。約500カ所のごみステーションと校区公民館に専用ボックスを設置。週1回の回収頻度で、収集運搬コストのため、住民は有料の専用袋(10枚入り100円)を使用します。

この2つの自治体は、焼却炉を持っていません。増え続ける紙おむつはこれまで埋め立てられる「一般ごみ」としてきましたが、リサイクルでゴミ減量は大きく前進し、ゴミの埋め立て処分場の延命化に目途がつけることができました。
ユニ・チャームは、その後、紙おむつの「パルプ」部分だけでなく、高分子吸収剤についても特殊な酸によって再生する技術を確立しています。
またプラスチック部分のついてもペレット化し、プラスチック製品として再生して、専用ボックスの蓋部分に使用しています。
オゾン処理による分解・再生技術
2015年、ユニチャームは、高知大学の市浦英明教授らの研究チームと共同で、使用済み紙おむつから上質パルプを再生するオゾン処理による分解・再生技術を開発しました。
オゾンガスを水に溶かしたオゾン水溶液を使用して、高分子吸収剤を分解し、パルプのみを取り出します。オゾンによる殺菌・脱臭効果で大腸菌等もほぼゼロになり、オゾンによる漂白効果で、再生されたパルプは元の材料よりも白くなります。
また、オゾンは酸素に戻るため、パルプに残存物質が残りません。化学薬品を使用しないため、環境負荷が低いです。
このように、使用済みの製品を原料に用いて、同じ種類の製品を再生するリサイクルを水平リサイクルと言いますが、紙おむつという製品で水平リサイクルを実現したのは世界初です。
トータルケア・システム(株)と福岡県大木町等
2005年から福岡県のリサイクル工場を稼働し、すでに18年の実績があります。
2011年10月から自治体初となる家庭系の使用済み紙おむつリサイクルを開始し、現在では福岡県の大木町をはじめとする2つの自治体と200の医療施設や介護施設と連携し、使用済み紙おむつを専用の回収システムで収集し、リサイクルする仕組みを整備しています。
2020年4月に住友重機械エンバイロメントと凸版印刷と共に、使用済紙おむつから回収できるすべての再生資源をマテリアルリサイクルするシステム「完結型マテリアルリサイクルシステム」の事業展開に関して協議を開始しました。
水処理施設を主体にプラント設計・施工から運転管理まで幅広く手掛ける住友重機械エンバイロメントがプラント設計および施工を担い、再生資源の活用技術を持つ凸版印刷が、さまざまな製品へのアップサイクルを担う形です。

出典:トータルケア・システムホームページ
同じ2020年に、同社は、日本触媒とリブドゥコーポレーションと共に、使用済み紙おむつ中の高分子吸収剤(高分子ポリマー)の性能低下を最小限に抑えて回収する技術リサイクル技術を開発しました。
2020年の段階では、紙おむつからパルプを取り出して、建築資材として再利用したり、プラスチックを取り出して樹脂整形品にするというところまでは資源化できていましたが、高分子吸収剤(高分子ポリマー)の再利用には成功していませんでした。
高分子吸収剤(高分子ポリマー)の素材メーカーである日本触媒と紙おむつのメーカーであるリブドゥコーポレーション、再処理技術を持つトータルケアシステムが3社で協力をし、今後はリサイクルしやすい素材の開発や紙おむつの開発実用化を進める計画です。
水溶化処理による分解
使用済紙おむつを分離剤に溶解させ、分離・洗浄・殺菌・脱水を行いパルプ、プラスチックとして回収しています。汚物はバクテリアで分解し脱水汚泥として回収し、汚水は浄化し循環水として工程内で再利用しています。
再生パルプは建築資材、プラスチックはRPF(RefusePaper&PlasticFuel)とよばれる廃棄物を原料として製造された固形燃料、汚泥は土壌改良剤としてリサイクルしています。
(株)スーパー・フェイズと鳥取県伯耆町
こちらは紙おむつ処理専用の装置を開発したメーカーです。
紙おむつ処理専用装置「SFDシステム600」を開発し、地方自治体に納品しています。
紙おむつ交換で汚物がついたままポリ袋ごと安全にいつでも誰でも投入できます。
投入後は機械の中で、自動的に破砕・発酵・乾燥が同時進行します。触媒脱臭で、汚物による排気臭を除去するので排気の安全も確保します。
排出前に滅菌処理も行われるので、専用装置から最終的には安全な固形燃料ペレットを得ることができます。
ユニ・チャーム等のように、水平リサイクルを目指すのではなく、最初からRPFと呼ばれる固形燃料として再生することを目指しています。
鳥取県伯耆町では、使用済み紙おむつを燃料ペレットにリサイクルし、町内温泉施設のボイラー燃料として利用しています。燃料ペレットを使用することで温泉施設のボイラーのガスの使用量を約3割減少でき、運営コストも削減できています。
この処理装置は、設置するのに大きな社屋が不要で、既存の設置場所で対応できること、エネルギーの地産地消につながるというところが評価されて、新潟、鳥取、北海道など冬季のエネルギーコストが高い地方自治体や社会福祉法人で導入実績があります。
温風式加熱処理(燃料化)
SFDシステムは使用済紙おむつを破砕、乾燥、滅菌処理、及びペレット成形を行うシステムです。水処理プロセスを含まないことから広いスペースを必要としません。
幅5m、奥行き約1.6m高さ約2.7mなので、屋内に設置することが可能です。

ただし1日の処理量が限られているので、急激に処理量が拡大した場合の対応が困難というデメリットはあります。
サムズと松戸市
2009年4月から使用済み紙おむつリサイクルの保管を行っており、約15年間の事業実績があります。
病院、福祉施設と一般廃棄物処理委託契約を締結し、使用済み紙おむつを収集運搬しています。千葉県の松戸市、我孫子市、八千代市、白井市、取手市、土浦市、小金井市で広域リサイクルを行っています。
こちらは業務用大型洗濯機を改良し、独自の分離機を作り上げています。この分離機で、使用済み紙おむつを1回に平均で1,300枚処理できます。
80℃の温水に石灰を加え回転、攪拌させ、高分子吸収体を脱水します。石灰により高分子吸収体が保水機能を失って多量の水分を放出するため、水の使用量が少なくて済むのは大きなメリットです。
分離機から排出した後、次亜塩素酸を加えて消毒と乾燥、最後にパルプを洗浄しながら素材を回収してゆきます。
このような過程でパルプとプラスチックを取り出し、高品位の固形燃料、ダンボールにリサイクルしています。高品位の固形燃料は販売実績もあります。

洗浄・分離処理
使用済紙おむつを分離機に投入し、処理剤、消毒剤を加えて回転、撹拌することによって紙おむつを構成する素材ごとに分離し、脱水、消毒、洗浄、乾燥させます。
破砕工程を含まず、水の使用量が少ないのが特徴です。
花王と愛媛県西条市
花王も使用済み紙おむつのリサイクルに取り組んでいます。2021年1月から、京都大学と共同で「使用済み紙おむつの炭素化リサイクルシステム」の確立に向けた実証実験を愛媛県西条市で開始しました。
花王も使用済みの紙おむつを炭素化する独自装置を開発し、実証実験で性能向上につとめています。
京都大学と共同で、パルプの熱分解による炭素化技術の開発を推進。廃棄されたパルプを効率的に活性炭に転換できる可能性を見出しました。
この「炭素化装置」により、使用済み紙おむつの体積を20分の1程度まで激減させることができています。
再生された紙おむつは、タイヤの充填剤や電子材料等の高度リサイクル素材、保水・土壌改質剤、植物育成や下水処理に活用できる活性炭といった炭素素材へ変換できる可能性を秘めています。
今後の課題は、炭素化装置で紙おむつの処理能力をどこまで確保できるかです。
パナソニック
紙おむつのリサイクルと言っても、パナソニックのアプローチは高齢者施設や介護施設における現場の負担をより軽減するアプローチです。
使用済み紙おむつ処理機を開発し、社会福祉法人サンビジョンの高齢者施設にて実証実験を行いました。
使用済み紙おむつ処理機で、使用済み紙オムツから排泄物を分離し、減量/臭気を抑制して、体積を減らして、袋詰めまでを自動で行うことができます。
サイズは非常にコンパクトで、企業向けのシュレッダーと似たようなサイズ感で、フロアのどこにでも置けるサイズです。
高齢者施設での実証実験では、重さ・体積比で1/2、臭い1/10まで、改善効果を確認しています。実証実験前は体積を1/3まで減らすことを目標にしていましたが、実際には1/2までしか減らすことができませんでした。

出典:パナソニック株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部資料
脱水・減容分離型
塩化カルシウム水溶液中で使用済み紙おむつを撹拌し、高分子吸収剤(高分子ポリマー)を洗浄、脱水します。処理水は下水に排水し、脱水して袋詰めされた紙おむつを取り出して保管します。
LIXILと愛知県豊田市
LIXILも、高齢者施設や介護施設における現場の負担をより軽減するアプローチを取っています。
2021年に破砕機構付紙オムツ処理機を開発し、豊田市の特別養護老人ホームにて実証実験を行っています。豊田市の他、福岡市、神奈川県葉山町、横浜市、伊勢崎市、長岡市等でも高齢者施設でLIXILの分離装置を使った実証実験を行っています。
破砕機構付脱水・減容分離型
破砕機構付紙オムツ処理機は、紙オムツを破砕処理して体積を減らします。紙おむつ中の高分子吸収剤(高分子ポリマー)を離水し、すすぎ洗いして破砕した紙おむつと汚物とを分離します。
汚物は一定の基準を満たす排水として下水道に流し、破砕した紙おむつは焼却処理しやすい紙おむつ成分として回収します。
この分離装置により使用済紙おむつは、重さを約2分の1、体積6分の1〜4分の1にまで減らすことができ臭気もほぼ無くすことができます。

葉山町 令和4年記者発表資料より
このように水分を多く含む使用済みの紙おむつの分解・再生技術が進んでおり、加熱技術等様々な処理技術が発展していることが分かります。
また、リサイクルしにくい高分子吸収材の材料自体を見直し、生分解性のある環境に優しいものに置き換えようとする試みも進んでいます。
課題と今後の展望
現在、大人用紙おむつのリサイクルは、実証実験段階から本格的な普及期にあると思います。
既に実証実験を始めた地域からはいくつかの課題が浮かび上がってきてます。
コストの問題
リサイクルプロセスにおける、回収・処理・再利用にかかる費用をどのように負担するかが課題となっています。
特に、分解技術の高度化に伴う設備投資が必要であり、自治体や企業の負担が大きくなっています。
しかし、鹿児島の2つの自治体のように、焼却施設を持たない自治体にとっては埋め立て廃棄場の限界は見えており、これは緊急の課題です。埋め立て廃棄場を新しく造成することを考えれば、リサイクルへの設備投資は安いものかも知れません。
回収体制の整備
高齢者施設等と異なり、一般家庭から使用済み紙おむつを効率的に回収するシステムがまだ十分に確立されていません。
地域ごとのインフラ整備や回収ルールの標準化が求められています。
再生素材の市場需要
リサイクルにコストがかかる分、再生によって得られた再生パルプやプラスチックを活用する市場があるかどうかは、重要なポイントです。
リサイクルされたパルプやダンボールが商用製品に乗せることができれば、使用済紙おむつは重要な資源になります。
各地で実証実験が進んでいることから、令和元年度に環境省も「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」を定めて、全国の市区長村へ展開しています。
再生利用等事業者と市区町村のマッチングを行うための説明会を行ったり、具体的な検討を行う市区町村等への支援を行っています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
おむつのリサイクルといっても、メーカーによってそれぞれの社会課題へのアプローチやリサイクル技術は随分異なっています。
技術の発展や回収システムの整備が進めば、大人用紙おむつのリサイクルは、今後は実用化が進むと思います。
ただ、どんなリサイクル技術を用いたとしても、「回収」という手間が発生してしまいます。
使う側としては、やはりその場で水溶性で溶けてなくなってしまうようなパッドタイプの製品の方がありがたいと思いますが、残念ながら現在の技術で、生分解されるようなパッドの製品は研究されている段階です。
ですから、紙おむつのリサイクルには、やはり「回収」というプロセスを省くことができず、再生技術を持つ再処理事業会社とともに、廃棄物を回収する自治体、廃棄物を出す側の高齢者施設や在宅介護者の三者が協力しなくてはなりません
排泄ケアと紙おむつ、これは切っても切れない関係にあります。
これからもこのような紙おむつに関する新情報を届けていきたいと思いますので、ご興味のある方はこちらからメルマガ登録をお願いします。
[参考資料]
紙おむつから紙おむつを作る
―使用済み紙おむつから上質パルプを再生
デンプンから生分解性高吸水性ポリマーを開発
紙おむつ廃棄物のコンポスト処理を可能とする新技術
令和4年度使用済紙おむつ再生利用等に関する調査業務報告書(環境省資料)
使用済紙おむつ完結型マテリアルリサイクル取組提案(トータルケア・システム株式会社)