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トイレに流せる尿漏れパッド 27年以降実用化 紙オムツのリサイクルまでつながるか

公開日:2024.06.20
最終更新日:2024.06.25

在宅の介護でも、施設の介護でもかならずお世話になるのが紙オムツ。

便利なのですが、最大の欠点は、かさばること。

特に使用後の紙オムツはやっかいです。捨てる時も重くてかさばるのです。

汚れてるし、いっそ紙オムツごと、トイレに流せたらどんなに便利だろうと思ったことありませんか?

そんな方に向けて朗報です。

長瀬産業は5月22日、下水に流せる尿漏れパッドを2027年以降に実用化すると発表しました。紙オムツを取り扱うリブドゥコーポレーション(大阪市)との共同開発です。

尿漏れパッドであれば、使用後に薬剤と一緒にトイレに流せるようになるわけです。

紙オムツの場合は回収して専用の処理機で汚物と吸収剤を下水に流し、紙パルプは回収しておむつや製紙材料などに再利用することを目指しています。

この記事では、どうしてこんなことが実現可能になったのか、今までの紙オムツと何がちがうのか、また介護現場にどんなメリットがあるのか、社会へどんなインパクトがあるのかを調べてみました。

紙オムツが流せるようになった技術的な理由

紙オムツは、外側に尿もれ防止のための防水材、内側には肌に接する不織布、その中間の尿を吸収・保持させるパルプと高吸水性ポリマー(SAP)などがあり、これらを接着剤で接着してできています。

この吸水性ポリマーは、水を吸収すると急速に膨張します。

トイレに流すと排水を吸い込んで膨らみ始め、便器や配水管をふさいでしまう可能性があります。

ですので、紙オムツはトイレに流すのは原則禁止。

仕方なく使用済の汚れた紙オムツは、袋に摘めて一般可燃ごみとして捨てるしかありませんでした。

この吸水性ポリマー、従来品は、石油由来かつ非生分解性で簡単に分解することができませんでした。

生分解性が高い天然高分子であるでんぷんやセルロースを主原料とした吸水性ポリマー の研究開発は、長年行われてきましたが、これまで十分な吸水性能が得られず、最終製品としての活用は難しいとされていました。

しかし、NAGASEグループは、株式会社林原の有する酵素技術と、ナガセケムテックスの樹脂製造技術を掛け合わせて、澱粉を主原料としながら、吸水性能を最大限に引き出すことに成功しました。

でんぷん由来で生分解性が高く、特殊な薬剤をかけると1分足らずで液体化する吸水性ポリマーを開発できたのです。

ここがこの製品に使われている技術の画期的なポイントです。

長瀬産業プレスリリース資料より抜粋

 

しかし、吸水性ポリマーが流せたとしても、分厚い紙オムツの場合、防水材、内側には肌に接する不織布等のプラスチックや紙パルプは残ってしまいます。

このままだと、結局手間がかかるにも関わらずゴミが減らない、ということになります。

そこで、この紙オムツを資源として回収してリサイクルして再利用しようという試みもスタートしました。

処理・洗浄機に特殊薬剤をいれて使用済紙オムツを洗浄し、紙パルプとその他の部材を取り出します。パルプ部分はリサイクルして、新しい紙オムツとして生まれ変わらせることができます。

水溶性ポリマーを薬剤で溶かせるようになったことにより、処理洗浄機で紙パルプとして取り出すことができれば、紙オムツを資源化してリサイクルできる道筋が見えてきます。

介護現場や社会へのインパクト

では、トイレに流せる紙オムツに、果たしてどんなメリットがあるのでしょうか。

この紙オムツは、介護現場や社会全体へ、大きなプラスの影響があります。

介護現場にとってのメリット

紙オムツは、在宅介護でも、施設での介護現場でも使われますが、特に介護施設でのメリットは大きいでしょう。

医療や介護現場では、毎日一般の利用者では想像もつかないぐらいの大量の紙オムツが廃棄されています。

家庭で使用した場合は、一般廃棄物ですから、定められたゴミの日に捨てます。

介護福祉施設などで使用された場合は、事業系一般廃棄物ですが、プラスチックも使用されているため、一部の自治体では、産業廃棄物扱いしているところもあります。

さて、このような廃棄物は、家庭ゴミであれ、事業系のゴミであれ、回収する日が決められています。

ですから、廃棄物の日まで介護施設で使用済の紙オムツを保管しておかなければなりません。

使用済み紙オムツが大量にたまってくると何が起きるか。

まず悪臭です。いくらキッチリと縛ってゴミ箱に捨てても、大量にあると臭いが漏れてくるわけです。

介護施設は生活の場でもあるわけで、利用者や職員だけではなく、利用者の家族や関係機関など多くの人が出入りします。悪臭がすると利用者、訪問者、働く人全員を不快な気分にさせてしまいます。

また保管場所の問題があります。廃棄物の専用部屋も一杯になってきます。それをゴミの日当日に廃棄場所まで運搬するのも、かさばって重く、介護職員の負担になっています。

介護施設等大量に紙オムツが出る事業所に処理・洗浄機があれば、紙オムツを洗浄・保管して、資源ゴミとして出せるわけです。事業系の廃棄物は、処理にコストがかかっていますが、その処理コストも減らせるわけです。

社会全体へのインパクト

たかが紙オムツですが、高齢者の人口が増えるにつれ、日本全体で廃棄する量も増え続けています。

環境省資料によれば、年間約50~52万トンの紙オムツが国内で消費されています。使用された紙オムツは、尿を吸収して重量が増え、ゴミとして約200万トンが毎年排出されています。

使用済紙オムツが、一般廃棄物排出量に占める割合は、現状で4.3~4.8%程を占めています。これは2030年には6.6~7%にまで増えると予想されています。

環境省資料

これらの紙オムツはほとんど再利用されていません。

リサイクルを既に実施している自治体は、家庭系・事業系ともわずかに1~2%程度で、ほぼ全て焼却処理されています。

焼却場の処理余力が少なくなって、使用済紙オムツの再生利用などを検討開始した自治体もあります。

紙オムツの資源化や回収リサイクルは、温暖化ガス減らすためにも課題になっています。

水溶性ポリマーが水に流せるようになったことで、紙オムツの再資源化への途が開け、働く人の負担を軽減できるとともに、廃棄物量を減らし、温暖化ガスの削減にまで貢献できる可能性があるのです。

まとめ

今後、株式会社リブドゥコーポレーションとNAGASEグループは、まず尿漏れパッドなどの小型の衛生用品を水で流せるように開発し、27年をメドに介護施設やドラッグストアなど向けに販売予定です。その後30年をメドにパンツ型など大人用の紙オムツを製品化してゆく予定です。

販売価格は現時点では未定です。日常の消耗品だけにコスト面が課題になり、量産に向けて対策を検討するとのことです。

たかが紙オムツですが、技術革新一つで社会が代わる可能性があります。

今後、本格的に紙オムツのリサイクルを実現するには、処理・洗浄機の開発、紙オムツの回収ルート、廃棄物業者への周知等様々な準備が必要です。

しかし、もし実現すれば、介護現場で働く人たちの環境がよくなり、いままで焼却処理しかなかった紙オムツが再資源化できるだけでなく、CO2削減もできる一石三鳥が実現できるようになるでしょう。

今後の製品化に期待したいです。