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「ケアマネージャーの面談業務時間、7割削減に成功」した音声対話システムは使えるか?

公開日:2023.05.24
最終更新日:2023.05.24

KDDI/NICT/NEC等が高齢者向け対話AIを開発、ケアマネージャーの面談業務時間、7割削減に成功!という衝撃的な素晴らしいニュースを見つけました。

もし本当であればこれは素晴らしいことです。

でも、そもそもケアマネージャーさんのモニタリングというお仕事は、ロボット1つで7割減らせる、そんな簡単なものだったのでしょうか。

そんな疑問を持ちながら、本当にこのロボットが介護現場、特に在宅ケアでどのように役立ちそうなのか考えてみました。

私自身も遠隔ではありますが、老父の介護の経験があります。素晴らしく有能な元看護婦のケアマネージャーさんに出会い、いろんなことを教えていただきました。

彼女は一人で40件の利用者さんを担当されていました。その忙しさは想像に余りあります。

その有能なケアマネージャーさんのお仕事を思い浮かべつつ、ロボットが行う部分と、人間が行う部分をどのように気味分けるべきなのか、私なりに考えてみました。

ロボット導入を検討されている事業所の方、もしくはロボットを研究開発される方のお役に立てれば幸いです。

 

高齢者向けマルチモーダル音声対話システム“MICSUS”

「ケアマネージャーの面談業務時間、7割削減に成功」したこのシステムは、KDDI株式会社、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、NECソリューションイノベータ株式会社、株式会社日本総合研究所という大企業4社が内閣府SIP第2期に採択され研究開発している高齢者向け対話AIシステムです。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が選定した戦略的イノベーション創造プログラムに採択されたプロジェクトで、この対話AIシステムを活用して、介護モニタリングの実証実験を実施したものです。

MICSUSは、今後のケアマネ人材不足と、高齢者の話し相手がいないコミュニケーション不足という2つの社会課題に対してのソリューションとして開発されました。
同実証では、サ高住宅などの施設や自宅で生活する高齢者179名が参加、MICSUSが組み込まれたぬいぐるみ型の専用端末やスマートフォンとで計927回面談。

ケアマネージャーがMICSUSを通じて取得した高齢者の情報を確認用のツールアプリから確認することで、面談一回当たりの面談と記録に要する業務時間を平均7.0分から2.2分へ約7割短縮することに成功しました。

実際に動いている動画の説明はこちらです

動画で見るように、利用者との対話がすべて自動でテキストに起こされるので、スマホアプリで使えて、リモートワークで時間場所を問わず簡易に確認・修正が可能になれば、モニタリングシートを作成する業務の作業効率は慣れればかなり上がりそうです。

 

音声対話システム“MICSUS”から考えるケアマネの本質的な業務とは?

ここから先はお付き合いのあったケアマネージャーさんと、実際の我が家の在宅現場を思い出しながらの私の個人的な意見になります。

結論から言えばこういったAI人工知能を使った音声対話システムはモニタリングシステムの補助的なツールとしてはとても役に立つと思います。特にモニタリングシートの作成や文書事務を軽減する意味では大きく意味があると思います。

が、やはり人間が訪問してモニタリングするという業務を、しばらくはなくすことはできないのではないかと思います。理由は2つあります。

1.言葉以外でのモニタリングの重要性

ケアマネージャーさんは確かに定型的な質問をしますが、それ以外に多くのものを見ています。

実際に会ってみないとわからないことというのはたくさんあります。打ち身の傷があったり、転んだ擦り傷があったりというのは、カメラではなかなか見えません。

また高齢者というのは、相手に気を使わせまいと思って正直なことを言わないことがあります。食欲はなくても「ちゃんと食べている」と言ってみたりすることは多いです。

実際に訪問して顔色や歩き方、様子を見たり、転倒の跡がないかというのは訪問してみないとわかりません。

また、実際に会わないと高齢者とケアマネージャーさんとの間の信頼関係を育むことはできないでしょう。

2.利用者の協力が不可欠

もう一つ肝心なことですが、時間が来たらこのモニタリングシステムの前に素直に座る高齢者が果たして何人いるだろうか、と疑問に思いました。

訪問であれば、否応なくケアマネージャーさんの質問に回答しなくてはなりません。

しかしぬいぐるみは嫌なら簡単に避けることができるし、約束の時間を簡単に忘れる高齢者は多いです。

面倒臭いことを質問されたくない場合、素直にシステムの前に座ってくれない高齢者の方がむしろ多いと思います。

女性であれば話し相手が欲しいということもあって、こういったシステムの前に座ってお話を楽しみましょうというのはあるかもしれません。

しかし男性高齢者の場合、口数は少ない人が多く、おしゃべりを楽しむというカルチャーはそもそもありません。素直に時間が来たらこのシステムの前に座ってくれるとはとても思えません。

このシステムの前に利用者を呼び出す何らかのインセンティブがないと、このぬいぐるみの前に利用者を呼び出すことは難しいのではないでしょうか。

ただ、こういった水分の接種や、食事などの定型的な質問の頻度を増やすことによって、モニタリングの質はあがりますし、お喋りを楽しみたい利用者の場合は、月に1回という現在以上の細やかなデータをとることはできると思います。反応の変化や異常に気づくことも、早くできるはずです。

多少辛い点をつけさせていただくと、「おしゃべりを楽しむ」というレベルでは考えると、“MICSUS”では相手の反復が多く、残念ながら今一つ気の利いたおしゃべりまでは、していただけないような印象です。今の人工知能では、面白い「かえし」というか冗談というか、そこまでのレベルを期待するのはまだ無理なのでしょうか。

とはいえ、対話型AIを上手に補助的に使うことによって、文書の作成やの時間は減らすことができそうです。これは、ケアマネージャーさんの残業時間削減に直結します。
こういったテクノロジーを使いこなして、より質の高いケアをするケアマネさんとそうではない方との優劣は、今後はっきりしてくるのではないでしょうか。

まとめ

以上高齢者向けマルチモーダル音声対話システム“MICSUS”がケアマネ業務の効率化にどのように活かせるのかについて考えてみました。

やはりロボットで楽になる部分はあっても、ケアマネージャーさんが人間として面談を通してモニタリングする部分というのはある程度残るべきものではないかなと思います。

高齢者が進んでこのぬいぐるみの前に座るぐらい、面白い会話ができるようになれば良いと思います。そうなればモニタリングの頻度もやり方も変わってゆき、ケアマネージャーの方が本来やるべき仕事に集中できるようになって、高齢者のケアが質的も上がってゆくでしょう。

会話によるモニタリングという方向性もありですが、ケアの質を高めるというのであれば、むしろ利用者の日常の状況をモニタリングするツールの方が役に立つのではないかと思います。

つまり言葉にはしない日常生活で、どのような食生活を送っているのか、どのようなところでつまずいているのかを画像でモニターする見守りツールの方が、実際のところどうなのか、がよくわかると思います。

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