令和6年度介護報酬改定で、生産性向上推進体制加算が新たに設置されました。
ざっくり言えば、加算を取るためには、また書類を作って提出しなければいけないという話です。
「生産性向上」のためにここまで生産性が低くなるような書類づくりをしてどうするのでしょうか。
偶然ですがこの書類作りが劇的に楽になるツールを見つけたのでここでご紹介したいと思います。
私自身、5人程度のプロジェクト管理の現場で時間管理をしたことがあります。
エクセルを使っていましたが、当時を振り返ると、この生産性向上の推進加算書類を作るのがいかに大変か、想像できます。
介護の現場で、エクセルで時間管理をするのは限界があると思います。
やはりスマホを使うやり方に慣れていった方が、長い目で見てお得と思いこの記事を書くことにしました。
生産性向上推進体制加算:何が問題か
「生産性向上推進体制加算」とは?
「生産性向上推進体制加算」というのは、ものすごく簡略化して言うと、テクノロジーを導入して業務改善を継続的に行って、効率的に働けるようにしようとする介護施設に対しては、介護報酬を加算します、ということです。
そして、このような取組を行っている介護施設に対しては、人員配置基準を特例として柔軟にしますよ、というおまけもついています。
この生産性向上加算の対象は、宿泊を伴う施設系のサービスが対象です。具体的には以下のサービスです。
・特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)
・介護老人保健施設(老健)
・介護医療院
・特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)
・ショートステイ(短期入所生活介護、短期入所療養介護)
・小規模多機能型居宅介護/看護小規模多機能型居宅介護
・認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)
加算を受けるためのテクノロジー要件も決まっています。
具体的には見守り機器、職員間の連絡調整が迅速にできるインカム、介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に役立つものです。
生産性向上推進体制加算は、加算(Ⅰ)と加算(Ⅱ)に別れています。加算(Ⅰ)はテクノロジーを複数導入してないといけないので、いきなりはハードルが高いですが、その分取得できる加算額は大きくなっていて、利用者1人あたり月100単位です。
介護保険は1単位10円ですから毎月1人あたり1000円の加算になるわけで、施設で50人を預かっていれば、毎月5万円、年間60万円の加算になります。
これでITの導入費用がまかなえるぐらい手厚い支援内容になっています。
テクノロジーを導入した施設には、ちゃんと加算を厚くするのですから良いことづくめに見えます。
獲得要件の何が問題か
問題はここからです。加算のための「生産性向上」これは何をもって図るのか。
データをもって証明しなくてはいけません。
この「生産性向上推進体制加算」を獲得する要件として、毎年1回データをデジタルで提出することが義務づけられています。
では、どんなデータを提出するのか。書類のフォーマットも書式もこちらに定められています。(PDFリンクで貼ってください)
テクノロジー機器を導入した場合には、総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の調査をしろとか、年次有給休暇の取得状況の調査をしろとか書式の定めがあります。
しかし、一番の難題は、資料の最後にある別添4の職員向けのタイムスタディ調査です。
5日間の自記式又は他記式によるタイムスタディ調査を実施することが、加算の獲得要件になっています。
ただし、調査に係る現場の負担も考慮し、「日中の時間帯、夜間の時間帯それぞれについて、複数人の介護職員を調査の対象とすることで足りるものとする」ということになっています。
このタイムスタディ調査には正直驚きました。
記録は10分単位です。確かに介護事業所は忙しいです。
通所事業所と訪問介護を併設していたお付き合いのある介護事業所は、なんと5分刻みで時間管理していました。
その代わりに、ちゃんと勤怠管理システムがあって、事業所を出る時と戻った時にはかならず、ログインしてタイムカード押してました。
毎日のことなので、このようなシステムがないとやってゆけません。
ちなみに私も15分刻みで仕事をしていたことがあります。1年間のプロジェクトで人件費のコスト管理をやりました。
この時はエクセルでやりましたが、結局1日の終わりにまとめて入力という、極めて人手に頼ったコスト管理でした。
人為的である方が、プロジェクトが赤字になりそうな時に、数字を調整できたので実は都合がよかったのです。
チームの仲間からは「トイレに行く時間、休憩時間の扱いはどうする」と不満の声があがりました。
当時のプロジェクトマネージャーは優しく、「食事、トイレ等の人が生きてゆくのに必要な時間はコストにいれなくて良い」と言うご指示が出たため、純粋に顧客のために仕事をした時間だけを計算していました。
というわけで、1年間にわたって毎月末、面倒な作業をエクセルの処理を続けました。
このタイムスタディ調査票は、まさにあの時のプロジェクト管理シートにそっくりです。
単位は10分でも、この記入例を見る限り、巡回業務や休憩をとった場合は、1分単位で作業記録をつけろ、というものです。
エクセルでは多分無理
せめてもの救いは、このタイムスタディが5日間でよいこと、複数人がやればよいというだけで、フロア全員とかいう定めがないことです。
仮にそうだとしても、この調査票をエクセルでつくるとなると、相当な負荷がかかるでしょう。
この5日間の生産性が落ちることは確実です。
「生産性向上」の証明のために、生産性が落ちるという馬鹿げた事態になりかねません。
無料でできるタイムスタディ調査の帳票出力
このような状況を解決すべく、心ある企業が無料でタイムスタディ調査用のアプリを提供してくれています。
ここでは条件付きで無料で使えるアプリを2つご紹介します。
いずれも入力はスマホでできます。
画面をタップするだけで業務内容を簡単に入力できます。
スマホを置き忘れない限り、その場で入力ができる優れものです。
「ハカルト」
京都のベンチャーである株式会社最中屋が特別キャンペーンを行っています。
先着100法人限定ではありますが、令和6年度中タイムスタディ調査の帳票出力機能を無償提供しようというものです。
提供しているのは2022年創業の京都のベンチャーです。
介護の「生産性向上」を掲げる企業は多くなってきましたが、介護分野の「産業化」と持続可能な介護保険制度の確立に向けてという大きな目標を持って製品開発やコンサルティングなどをやっている会社です。
少人数の会社ではありますが、介護のシステム構築経験者、防災士、社労士等々専門分野を持ったプロが集まっている会社です。
あくまで機能向上ために協力する形ですが、無料でタイムスタディ調査の帳票を出力できます。
ただし先着100法人まで限定です。
ケア記録AIアプリFonLog
同じくベンチャーではありますが、合同会社AUTOCAREは、国立大学法人九州工業大学の大学発ベンチャーです。
こちらの会社は、大学病院や介護施設での業務改善や生産性向上を、AIやIoT技術を活用して長年研究してきました。
その研究過程で、AIを訓練するための教師データに必要だったため、このタイムスタディを幾度となくやってきたという経緯があります。
業務時間の見える化(タイムスタディ)は非常に大変だったという経験から、なんと生産性向上委員会の無料パッケージを提供してくれます。
大盤振る舞いで、なんとすべて無料でスマホも貸し出してくれます。
ただし、審査制でニーズをしっかりアピールしないと審査には通らないようです。
こちらは3月末まで受付で既に締め切っていますが、次回のキャンペーンを企画中とのことです。
システム導入が不可欠な理由
厚労省の出力標準のシートを見ると、エクセルでデータを入力するのを想定したシートになっています。
しかし現実に、仕事をしている最中に、分単位で何をしたかを記録するということができるでしょうか。
ちょっとやってみればお分かりになると思いますが、その場で記憶もしくはメモして後でエクセルで入力するなんてことはまず不可能です。
忙しい中、覚えていられるものでもありませんし、メモはすぐ失くしてしまいます。
そして出来上がった記録はかなり不正確なものにならざるを得ません。
不正確なデータをエクセルに入力して提出しなければならないわけで、仕事が増えているだけなのです。
本気で生産性向上に取り組むのならば、その場で記録をするという仕組みは不可欠です。
iPhoneでもAndroidでもどんなスマホでも構いません。
その場で仕事をしたら入力するという仕掛けがないと本気で生産性向上に取り組みなんてことはできないと思います。
2つのアプリともスマホでタップするだけで、稼働実績を入力することができます。
どうせ帳票を作らなくてはならないのであれば、何らかのタイムスタディーアプリを使って、システム的に意味のあるデータを蓄積して時間の使い方の改善までつなげたいものです。
ご紹介した2つの会社はベンチャー企業ですので、開発に協力するという意味合いはあると思います。
しかし自社で稼働を記録する工数管理システムのようなものが何もないのであれば、協力しても損はないと思います。
「業務の見える化」と口で言うのは簡単ですが、実際にデータを作るのは本当に大変です。
くれぐれもエクセルで5日分データを作れば済む、などという無謀な計画は思いとどまってください。
残業代を考えれば、有料であったとしても、お金を払った方が安いぐらいだと思います。
まとめ
生産性向上推進体制加算とは何かということと、実際の提出書類、特にその中でも別添4の調査票「タイムスタディー調査票」がいかに大変か、さらにそれを解決できるツールについてご説明してきました。
さて、ここまで苦労して提出したデータが全国から集まってきたとして、その全てを厚労省はチェックしてるのでしょうか?
もししていたのなら厚労省職員の方にお詫びしますが、要件に遭わないものをチェックして落とすためだけならば、膨大な時間をかけて書類を作らせる意味があまりない気がするのです。
ここで見つけたベンチャーのアプリ以外にも稼働工数を管理できるアプリはあると思います。
目的が生産性の向上なわけですから、厚労省も適切な工数管理アプリを複数指定し、その導入まで生産性向上加算の要件にしてしまえばよいと思います。
そして導入1年後のデータをチェックして、数字で比較するほうがよほど合理的だと思います。
そうすれば帳票をいちいち作成して厚労省にデータを提出する手間もなくなりますし、提出された側も、帳票を全て確認する手間が省けます。
初年度費用は全て国が負担し、導入後に正しく運用できていない事業所は、加算停止にしたほうが、導入は早く進むと思います。
年1回のデータ提出のために資料を作らねばならず、そのための残業をして生産性が下がるというのは、本末転倒です。
そして、この生産性向上推進体制加算は、3年の経過措置が設けられており、2027年度から本格実施で義務化されます。
今後とも生産性向上については最新の情報をご案内していきたいと思います。
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