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通所介護(デイサービスなど)の送迎業務は外注可能?2つのケースから見る新しい選択肢

公開日:2024.10.29
最終更新日:2024.10.29

通所介護(デイサービスなど)の送迎はかなり大変な仕事です。

「送迎」は業務負担の約30%を占めると言われています。

とはいえ、お迎えが来るからデイサービスに行くのであって、送迎がなかったらデイサービスへの参加はぐっと減ってしまうでしょう。

しかし、車の運転が得意な介護士や福祉用具専門相談員は少なく、ドライバーの確保は頭の痛い問題ではないでしょうか?

  • 運転の上手な職員がいない
  • 送迎を外注したくても費用がかかる

さて、そんな状況に、滋賀県野洲市が1つの回答を出しました。

複数のデイサービスによる共同送迎です。

この記事では、共同送迎サービスの滋賀県野洲市の事例、類似の事例である群馬県前橋市の事例、またこのようなサービスが実現した背景、減算の影響について調べてみました。

滋賀県野洲市:通所介護福祉共同送迎サービス「ゴイッショやす」及び高齢者移動支援モデル事業「つれだし隊」

2024年10月に滋賀県野洲市で通所介護施設の共同送迎サービスがスタートしました。

「ゴイッショやす」は、一般社団法人やす地域共生社会推進協会が、市内8つの介護施設の送迎をまとめて担います。

やす地域共生社会推進協会が車両を準備し、ダイハツ工業株式会社の運行管理システム等の提供を受け、2024年10月1日から運行を開始しました。

市内8つの介護施設は、送迎業務を外部委託という形で共同運行することで送迎業務の効率化を図り、介護人材不足に対応できます。

「つれだし隊」は、高齢者の移動手段確保の支援をするためのサービスです。

日中の遊休車両を活用した、ショッピングセンター等への送迎による買い物付き添い支援サービスです。

一般社団法人やす地域共生社会推進協会が中心になってこの仕組みを作り上げています。

やす地域共生社会推進協会とは

野洲市内全域のみならず県内を含めた「持続可能な地域共生社会のモデル」を創ることを目標に掲げて活動している一般社団法人です。

「商福連携」つまり「商業と福祉の連携」を目指し、ビジネスや企業活動と社会福祉の分野を結びつける取り組みを行っています。

運転免許を返納した高齢者は、外出するにも一苦労します。この身近な困り事に対して、日本初の移動支援モデルの社会実装に挑戦しました。

2023年7月に実証実験ドライバーを募集し9月から11月にかけて2か月間の実証実験を行いました。

1.介護施設で働く人の負担軽減:ディサービスに通う高齢者の共同送迎
2.働き方改革:1日数時間単位で働ける仕組み作り
3.介護技術やクルマの運転技術の向上
4.高齢者への移動支援:日常のお買い物やイベントなどへの参加をお手伝い

これらを、実証実験で検証し、平日の空いている2時間程度を仕事に充てることが出来るように、子育て中の方でも無理なく働くことができる体制を整えました。

この時の参加施設数は4施設、利用者数は37人で1日の送迎人数は15人程度です。

ダイハツ工業(株)の運行管理システムを活用して作成された最適な送迎ルートをもとに、ドライバーが送迎を行いました。

ダイハツ発表のデータによると、この実証実験では送迎業務を1日平均75分短縮でき、使用台数の20%の削減が実現しました。また、参加職員の93%が業務負担の軽減を実感する結果となりました。

高齢者への移動支援の方は、実施回数4回、利用者数33人で昼間帯の遊休車両を活用した買い物移動支援を行いました。

介護施設共同送迎サービス「ゴイッショやす」正式開始へ

こういった実証実験を経て、やす地域共生社会推進協会では、2024年にはSDGs宣言をし、ドライバー研修に力を入れ始めます。

現在では、地域の野洲自動車教習所の全面協力を得てスムースな運転と後進感覚を磨く技能講習も行っています。

また、高齢者の残存能力を使った乗り降り補助等の介護テクニックの向上にも努めています。

更に不定期で1日数時間でもドライバーとして働ける体制を整えています。こうして体制を整え、正式に野洲市から通所介護施設共同送迎サービスを委託されることになったわけです。

この共同送迎は日経新聞等でも報道されました。当初は、野洲市が中心になって共同送迎を推進したのかと思いました。

が、実際にはドライバーを集め、働きやすい環境と体制を整えて組織を作って地域の高齢者の困り事の解決に知恵を絞っている社団法人やす地域共生社会推進協会の存在が大きいことがわかりました。

この社団法人がなかったら、共同送迎は実現しなかったことでしょう。

実績が認められ、2024年度ニッセイ財団「高齢社会地域福祉チャレンジ活動助成」に採択されています。

群馬県前橋市:デイサービス特化送迎委託サービス「Care Drive」

送迎委託サービス「Care Drive」は、一般社団法人ソーシャルアクション機構が行っている介護タクシーと介護事業所のマッチングサービスです。

デイサービスの全業務の30%を占める「送迎」を切り離し、介護タクシーに委託することにより介護人材不足を解決しようとする試みです。

一般社団法人ソーシャルアクション機構は、もともと「福祉Mover」というクラウド上の介護送迎管理のアプリを開発していました。

この福祉Moverを活用して、介護タクシーと送迎をお願いしたい福祉施設等を結びつけたのが送迎委託サービス「Care Drive」です。行ってみれば介護タクシー版配車サービス「ウーバー」と言ったところです。

介護の本業ではない送迎という業務を完全に外部化し、外注することを目指しています。

一方、介護タクシーの側にもメリットがあります。介護タクシーは、要介護認定を受けた人や障害者に利用者を限定しているので、病院の転院や退院時が中心で、仕事がいつもあるわけではありません。

しかし、デイサービスの送迎というのは、ほぼ毎日運行の需要があるため、マッチングサービスによって介護タクシーの方も空き時間を利用して、安定的に収入を確保することができます。

こちらも、23年11月から実証実験を続けています。介護施設2カ所と介護タクシー2台で始めましたが、2024年6月現在は6施設、6台までに拡大しました。

2024年10月現在、一般社団法人ソーシャルアクション機構から独立した形で、ソーシャルムーバー株式会社による群馬限定で正式にサービス開始しています。

従来型の介護送迎代行の業者は多数ありますが、送迎委託サービス「Care Drive」との大きな違いは、ソーシャルで1時間単位で介護送迎業務を外部に委託できる点です。

福祉Moverとは

さて、ここで福祉Moverというアプリで何ができるのか、確認しましょう。

使い方はいたってシンプルです。スマホに専用のアプリをダウンロードして、普段よく行くお出かけ先を5か所まで登録しておきます。

病院や役所、ショッピング施設などです。

福祉Moverを利用したいときは、アプリを開いて事前に登録した行き先を選択するだけ。

すると、近くにいて同じ方向に向かっている送迎車をAIが瞬時に選び出し、車と人をマッチングします。

車の現在位置と到着時間がアプリの地図上に表示されるので、その車でよければ『決定』をタップ。あとは車が来るのを待つだけです。

また、デイサービス等、利用者が予め決まっている場合、独自のアルゴリズムを用いて、最適な送迎計画を作成することができます。

送迎実績をデータとして蓄積して、日々の送迎日誌の作成から送迎課題の抽出まで活用できます。常に全国で50事業所以上で利用の実績があります。

一般社団法人ソーシャルアクション機構とは

一般社団法人ソーシャルアクション機構は、高齢者の認知症予防と介護予防・介護改善を目的とした、脳・体活性プログラムの「ICTREHA事業」を運営・管理、そして送迎業務のデジタル化を柱とした交通系プラットフォーム「福祉Mover」開発のために設立されました。

社長の北島氏は北海道の日高の株式会社エムダブルエス日高というところで250人収容の巨大なデイサービスを立ち上げた実績のある方です。

巨大なデイサービスの場合送迎を人手で行うのは難しいため、早々にデジタル化に着手、「福祉Mover」を開発しました。

こういった実績が認められて、群馬初のベンチャーとして群馬イノベーションアワード2016スタートアップ部門入賞、経済産業省「健康寿命産業創出推進事業」採択と数々の受賞歴があります。

地域の交通弱者のプラットフォームを目指す

技術革新のおかげで、タクシー業界でもDX化の波が押し寄せています。都市部では配車サービスの競争が起きており、電話でタクシーを予約するということが難しくなりつつあります。

しかし地方では、高齢化で免許を返納する人が増えています。地域では「交通弱者」が増え続けています。

期待されていたタクシー業界の方も、地方ではタクシー数がどんどん減っています。これはドライバーのなり手がいないこと、コロナの影響でドライバーが廃業してしまい、元に戻っていないということも挙げられます。

そんな中でも介護の送迎車は1日に何度も車を走らせているわけです。

このような介護タクシーと福祉施設とのマッチングのプラットフォームがうまくいけば他の地域にも展開ができます。

北嶋社長は介護の送迎車が地域のインフラになれないかという大きな目標を掲げて活動をしています。目下の課題は介護タクシー車両の圧倒的な不足です。

2つの事例の共通点

滋賀県の野洲の事例と、群馬の前橋の事例を見てきました。

共通点がいくつかあります。

まず目的が社会課題の解決を目指している点です。どちらも、介護送迎の現場の業務の負担を減らすことと、地域の高齢者という「交通弱者」の状況を改善するという2つを目指しています。

また手法にも共通点が見られます。働き方改革と配送システムです。

働き方改革という点では、野洲市の場合は、1日のすき間時間の中で無理なく数時間単位で働くということができるように工夫しています。前橋のケースでも、介護タクシーは1時間単位で支払いを受け取ることができます。どちらも従来型の「雇用」という形にはこだわっていません。

また、これらの働き方改革を支えるのは、高度な配車システムです。野洲市の場合はダイハツ工業、前橋の場合は独自開発の配車システムです。どちらもクラウドを利用した高度な配車システムで、これがなければ、最適送迎ルートを瞬時に計算、ということはできません。

こういった動きが2024年に出て来たのには、理由があります。

通所介護の外注化が実現した背景

厚労省がルールを明確化

こういった共同送迎が今年から始まっているのは、2024年度の介護報酬改定で厚生労働省がルールを明確にしたことによります。

厚労省はドライバーの確保が難しくなっている現状を考慮し、効率的で利便性の高い仕組みを作れるようにするために、送迎を外部へ委託している場合も含めて、他の事業所の利用者も一緒に乗せる運用が可能なことを明示しました。

これまでも共同送迎は禁止されていたわけではありません。

しかし減算等に影響があるのかについて「自治体によって解釈・対応が違う」などの声があがっていた経緯があります。

複数の事業所が連携した“共同送迎”のルールが曖昧でしたが、これを国がはっきりと共同送迎が可能と認めた形です。

共同送迎が可能なケースと送迎減算

具体的に、共同送迎が可能なケースとは、
1)他事業所の職員が自事業所と雇用契約を結び、自事業所の職員として送迎を行う場合
2)委託契約(共同での委託を含む)に基づき送迎を委託している場合

このように契約に基づいて“共同送迎”を行っている場合は、送迎減算は適用されないと明示しました。

「令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.3)(令和3年3月26日)」の送付について

契約によって責任の所在が明確になっていれば送迎減算を適用しないという考え方です。

令和3年の段階でこのようなQ&Aが厚生労働省から出されていたにもかかわらず、全国的にルールが曖昧だとされてきたということは、厚労省の周知のやり方自体にも問題があるとは思います。

が、改めて明確にしたということは意義は大きいです。

まとめ

デイサービスの業務の30%を占める介護の送迎業務を外部委託化できれば、デイサービスの職員が本業に集中することができ、業務の合理化にもつながります。

野洲のケースにせよ、前橋のケースにせよ、成功の鍵はドライバーの確保です。

それには、1時間単位で働ける柔軟な仕組づくりや、運転未経験者への運転技術向上のトレーニング等の制度や運用面が課題となります。

こういった取り組みが早く全国で進んで行って欲しいと切に願っています。

[参考資料]
一般社団法人やす地域共生社会推進協会|連れ出し隊

つれだし隊事業案内(ひだまりウォーク)

ダイハツ工業株式会社|ゴイッショ

野洲市通所介護施設共同送迎サービス「ゴイッショやす」及び高齢者移動支援モデル事業「つれだし隊」が運行を開始

ソーシャルムーバー株式会社 – 介護福祉システム

福祉Mover|ソーシャルアクション機構