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神奈川県の「さくらネット」から考える:医療介護連携ネットワークの現状

公開日:2024.09.21
最終更新日:2024.09.21

新聞で、医療介護連携の記事を見つけました。

神奈川県の横須賀・三浦地域の病院や薬局、介護事業者が患者の診療歴や投薬、ケアプランなどの情報を共有する地域医療介護連携ネットワーク「さくらネット」が稼働するそうです。

これで重複検査や重複処方、一緒に飲んではいけない薬の回避等ができるようになり、緊急時の対応が早くなる、等のメリットがあります。

高齢の父の付き添いで何度も病院に行った経験から、こう言ったネットワークができるのは素晴らしいことだと思います。

医療介護連携のネットワークがどうなっているのか調べてみました。

医療介護連携ネットワーク「さくらネット」

さくらネットについてもう少し詳しく見てみましょう。

2024年9月開始で、神奈川県の横須賀・三浦地域の病院や薬局、介護事業者が患者の診療歴や検査結果、薬の処方歴、ケアプランなどの情報を共有できるネットワークです。

このシステムに5市1町3区(横須賀・三浦・逗子・鎌倉・藤沢市、葉山町、横浜市戸塚・金沢・栄区)にある計269施設が参加します。これは2019年に始まった横浜市東部の「サルビアねっと」に次いで2例目だそうです。

神奈川県作成参考資料より抜粋

地域医療介護連携ネットワークのメリット

これまで、カルテや検査結果などの患者情報は、病院をまたぐと共有はできませんでした。病院を変わるたびに、同じような検査を一からやり直さなくてはなりませんでした。

これが大きく変わります。

患者がシステムに事前登録さえしておけば、ネットワークに登録している医療機関、薬局、介護施設でカルテや検査結果などの患者情報の共有が可能になります。

他の医療機関で受けた検査データや処方薬の情報を参照できると以下のようなメリットがあります。

    • 検査や処方の重複がない
    • ご自分で病名、服薬、検査、禁忌薬、アレルギーなどがわかる
    • 救急搬送されたとき、正確な情報が医療者へ伝わる
    • プライバシーが厳重に保護される
    • 災害時でも、医療・介護情報を損失する恐れがない
    • お薬手帳持ち歩かなくても、間違いなく服薬情報が伝わる

誰が利用できるのか

地域医療のためのネットワークなので、さくらネットに参加する医療機関を受診した患者の方で、情報共有に同意した患者のみが対象です。

利用にあたってはこちらのページのQRコードから事前に登録が必要です。

推進体制

さくらネットは、2023年5月から神奈川県からの提案で検討がスタートしました。その後関係する医師会とも調整し、地域医療介護総合確保基金へシステム構築の予算を申請。一般社団法人さくらネット協議会を設立し、横須賀共済病院・湘南鎌倉総合病院に2024年8月に試験導入しました。

これは、地域の医療が「1病院完結型」から、病院毎に機能を分担する「地域完結型」の体制へ移行している流れに沿ったものだと言えます。

さくらネット(地域医療介護連携ネットワーク)説明資料

横須賀共済病院・湘南鎌倉総合病院を頂点とした「高度急性期」の患者を対象とした救急拠点病院を中心として、回復期や慢性期の患者を支える地域の診療所や薬局、介護施設との連携を測るための情報ネットワークです。

うまく稼働すれば、横須賀湘南地域の医療・介護サービスを受ける利用者、そのご家族にはメリットが大きいと思います。

残念ながら私が住んでいる地域ではこのような医療介護連携のネットワークがまだ無いようです。早くこのようなネットワークが普及してほしいと思います。

全国の医療介護連携のネットワーク

では全国の医療介護連携のネットワークはどのくらい普及しているのでしょうか。

医療介護連携のネットワークは、地域医療介護総合確保基金を活用して構築されます。財源は、国が3分の2、都道府県が3分の1と定められていますが、どちらにせよ税金です。

しかし、この地域医療情報連携ネットワークについて、令和元年に会計検査院から残念な指摘が入っています。

システムが全く利用されていないか、利用が低調であるといったネットワークが複数存在し、都道府県から事業主体に対して十分な指導等が行われていないと指摘を受けています。

せっかくネットワークを作ったのにほとんど利用されていないというケースが、調査した218の内、59もあったということです。

「地域医療情報連携ネットワークの現状について」より抜粋資料<PDF>

これは令和元年の話で、厚生労働省も対策としてその後改善するためのアクションをとっていますが、現在どうなっているかまでは分かりませんでした。

ちなみに、厚労省の令和元年の資料では名称は地域医療情報連携ネットワークであり、介護という言葉が入っていません。医療分野が中心で進められてきた施策だということが分かります。

地域医療情報連携ネットワークを介護施設まで拡大しようという動きは、厚労省の方針の変更によって、追加されたものと考えられます。

 

調査した218の中で、都道府県全域で使うことができ、かつ登録患者数が1万を超えているのは、令和元年の時点で以下の17でした。

都道府県 名称 登録患者数
宮城県 MMWIN 104,591
山形県 山形県内NW 90,438
栃木県 とちまるネット 24,000
石川県 いしかわ診療情報共有ネットワーク 62,589
福井県 福井メディカル ネット 54,241
静岡県 ふじのくにねっと 28,709
三重県 三重医療安心ネットワーク 22,019
滋賀県 びわ湖あさがおネット 46,335
島根県 しまね医療情報ネットワーク(まめネット)県内全域 53,858
岡山県 医療ネットワーク岡山(晴れやかネット) 36,395
広島県 ひろしま医療情報ネットワーク(HMネット) 130,687
徳島県 徳島糖尿病克服ネットワーク(阿波あいネット) 24,732
香川県 かがわ医療情報ネットワーク 16,924
愛媛県 愛媛県医師会医療情報ネットワーク(EMAネット) 14,555
佐賀県 佐賀県診療情報地域連携システム 405,712
長崎県 あじさいネット 104,683
沖縄県 おきなわ津梁ネットワーク 56,167

もちろん、都道府県よりも狭い二次医療圏でのみ使えて、登録者数が1万を超えているネットワークもあります。

また登録者数が1万人を超えているからと言ってそれでその地方自治体の患者のどれだけをカバーできているかまでは分かりません。

しかし、このように見ると、平成24年からスタートして、約12年前も経っているのに地域医療情報連携ネットワークが全国に広く行き渡っているとはとても言えないように思います。

広がらない理由

1.事業主体がバラバラ

事業を推進する主体が、病院であったり、地方NPOだったり、地域によってかなりバラバラです。

会計検査院の指摘にもあるように、これらの病院や団体に、都道府県が十分なフォローを行ってこなかったのでしょう。

せっかくシステムを作ったのに、システムの運用費用の手当さえできていない団体もありました。

これはネットワークサービスなので、ネットワークに加盟する医療機関や診療所、介護施設が増えれば増えるほど、サービスの利便性は向上します。

患者や利用者の立場からすれば、同じ県内であれば、医療機関や薬局を変えても、自分の過去の病歴や診療データが引き継がれた方が、どう考えても便利です。実際にそのように、自治体全域で使えるようにした県もあります。

公金を使って行う施策なのですから、サービスの質を上げて利用者の数を増やそうと思えば、最初から、市区町村等の地方自治体が中心になって推進した方が良いのではないでしょうか。

2.システム間の連携

これも一部では問題になっていますが、県内に異なる医療介護情報連携ネットワークが複数ある時、そのシステムはつながるのでしょうか。

幸いなことに神奈川県の場合は1つ目の横浜市港北区、鶴見区等を中心とした「サルビアねっと」と2つ目の横須賀を中心とした「さくらネット」は同じシステムベンダーが構築しています。

ですから、横浜市港北区から横須賀市へ引越した場合には、自分の手術歴や検査結果などのデータは、おそらくそのまま引き継げるようになるのでしょう。

ですが同じ県内にネットワークが複数ある県で、システムベンダーが異なったいたら、ネットワークの接続は当事者同士の話し合いということになってしまいます。

 

3.利用者視点の欠如

もう一つ、広がらない大きな理由と思うのは、医療介護情報連携ネットワークには利用者からの視点というのが欠けていると思います。

厚生労働省の資料を見ても、医療施設にとってのメリットがたくさん述べられています。しかし肝心の健康保険や介護保険を負担している患者、利用者にとってのメリットや説明はごく簡単なものでした。

地域医療介護情報連携のネットワークが大規模になれば、患者や利用する側にとっても多くのメリットがあります。

病院を変わるたびにレントゲンやCTスキャン等をやり直ししなくても済みます。予約とって病院にゆく回数が減らせます。診療データをCD-ROMで持ち歩かなくても良くなります。高齢の方が自分の曖昧な記憶に基づいて自分の症状を説明するのに苦労しなくても済みます。お薬手帳を忘れたために、無駄なお薬をたくさんもらわなくてもよくなります。

こういった利用者にとってのメリットを、十分に周知してできているでしょうか?

「登録お願いします」だけで、患者や利用者の個人情報の開示はどこまでなのか、いつまでどのように保管されるのか、万一情報漏れた場合についての対策等については説明がありません。

既に同じ県内で複数の医療介護情報連携のネットワークがある県もいくつかありました。相互に接続できるのかまでは不明です。こういうところを見ても、利用する側の視点や利便性は置き去りにされていると感じます。

まとめ

横須賀のさくらネットワークがきっかけで医療介護情報連携ネットワークの現状を調べてみました。

その結果、かなり残念な現状が浮かび上がってきました。

普及しない理由を3つ考えてみましたが最後の利用者視点の欠如というところが一番大きいと感じます。

マイナカードと健康保険証を一体化させるということも計画に上っているようですが、マイナカードは、医療介護情報連携ネットワークで具体的にいつから使えるようになるのかということも曖昧です。

利用者視点に立ったサービスの全体を設計している人が誰なのかわからず、便利なサービスを普及させようという意欲も感じられないです。

利用する立場の者からすれば、究極の個人情報を預けるのですから、この情報の保管年限や消去するタイミング、第三者提供の有無等の情報は、登録前に知りたいところです。

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参考資料

https://www.pref.kanagawa.jp/docs/f6z/ehr/top.html

https://www.townnews.co.jp/0501/2024/09/06/749909.html

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/renkei-support.html