管理者様の事業所運営を支え、
これからの介護を考える。

認知機能をスマホでチェックできるアプリ「ONSEI」

公開日:2024.08.27
最終更新日:2024.08.27

人生100年時代、超高齢化社会の日本ですが、長生きの最大のリスクの一つは、やはり認知症ではないでしょうか。

今のところ認知症を治す薬はありません。進行を遅らせる薬があるだけです。

恐ろしいことに、内閣府「平成29年版高齢社会白書」によれば、2025年には65歳以上の認知症の有病率は、なんと約5人に1人となると言われています。

この認知症を、なんとか早期に発見することはできないでしょうか。

今回ご紹介するスマホアプリ「ONSEI」は、認知機能の変化をスマホでお手軽に計測できる認知症セルフチェックツールです。

専門家でなくとも、スマホで手軽に認知機能の変化に気付くことができれば、早期発見に大いに貢献できすでしょう。

早めに発見すれば認知症であっても、自分のQOLを保って最後まで生活をすることができる可能性が高くなるからです。

今日はこの「ONSEI」が、これまでの無料認知症診断アプリとどう違うのか、どういう仕組みで動いているのか、価格や導入方法についてご説明したいと思います。

 

認知機能チェックアプリ「ONSEI」とは

ONSEIは、スマホで手軽に簡単な質問に声で回答するだけで、認知機能の変化を簡単に知ることができるアプリです。所要時間わずか20秒。専門家でなくとも認知症のセルフチェックができます。

日本テクトシステムズ株式会社のHPより抜粋

 

このアプリのすごいところは、約93%の正答率で軽度のアルツハイマー型認知症と健常者を判別することができる点です。

音声で認知機能を判別できる理由

では、なぜそんなことができるのでしょうか。

アプリの中で質問される「今日の日付は?」の正誤の判定だけで診断しているわけではありません。

日本テクトシステムズ株式会社のHPより抜粋

 

このアプリは、膨大な学習データをもとに、AIが入力された音声データから認知機能低下の疑いの有無を判別しています。

AIのベースになる学習データは、複数の熟練の専門医によって統一した厳格な基準で診断された軽度認知症の方と健常と判別された方、数百人規模のデータを基にしています。

これらの高齢者の方々の音声データから基本周波数、声道・音源特性、音高・音色変化、時間変動成分など1008要素の音声特徴量を、複数の機械学習アルゴリズムで抽出しているのです。

これにより、93%という高い判定率を実現しています。

開発の目的

判定の基礎となるビッグデータに、軽度認知症の方のデータを使っているというところがポイントです。

このアプリは、普通の健常者が軽度認知症になっているかどうかを、自宅で手軽にチェックできるように開発されました。

自宅にある体温計や血圧計と同じように、一般の人が普通に使うことができる一種のセルフチェックツールです。

医療施設ではないところで使われることを想定して開発された認知機能判別サービスです。医療行為に当たるものではありません。

93%というとかなり高いと思われるかもしれませんが、それでもやはり7%は判断の誤りもあるわけです。

このアプリで認知機能が低下したと判断されても大慌てするのではなく、普段から認知症に関心を持ってもらって、医療機関で精密な検査を受けるきっかけにしてほしいということが、このサービスが意図しているところです。

 

他の認知症テストや認知症アプリとの違い

とはいえ、これまでも無料の認知症テストアプリはいくつか出ています。

また、アプリでなくとも一般的な医療機関では「長谷川式簡易知能評価スケール」というスクリーニングテストは行われています。

これらとは何が異なるのでしょうか。

検査時間が早い

まず検査時間が20秒という圧倒的な速さで済みます。

医療機関で従来行われてきた「長谷川式簡易知能評価スケール」は以下の9つの項目を順番にこなしていくわけで、所要時間は早くても10分程度、遅ければ15分から20分程度はかかります。

検査項目 内容 目的
1.年齢 自分の年齢を答えられるか 自己認識の確認
2.日付に関する見当識 日付や曜日を聞く 時間的状況把握能力の確認
3.場所に関する見当識 現在いる場所を聞く 空間的状況把握能力の確認
4.言葉の記銘 3つの単語を覚えてもらう 新しいことを覚える力の確認
5.計算 簡単な引き算 計算能力の確認
6.逆唱 数字を逆から言う 短期記憶と処理能力の確認
7.言葉の遅延再生 覚えた単語を再度答える 短期記憶の保持能力の確認
8.物品再生 見せた品物を思い出す 視覚的記憶の確認
9.言葉の流暢性 野菜の名前をできるだけ多く言う 語彙力と言語流暢性の確認

 

特に8番の物品再生の検査ですが、これは実際に、時計や鉛筆、メガネなど日常的に誰でも知っている5つの品物を見せてその後その品物を隠してから記憶の確認をしていくテストです。

テストでは、実際に見せる品物を5つ準備しなくてはなりません。

この物を準備する必要がないように、アプリ一つでタブレットでテストができるようにしたというアプリもあります。

無料の認知症テストアプリ『Moffワスレナグサ』

品物を準備しなくても済むので便利なアプリではありますが、それでも項目を一つ一つこなしていかなければならないのは変わりません。

テストにはやはり10~15分程度はかかってしまうでしょう。

結果の判断が簡単

「長谷川式簡易知能評価スケール」は30点満点で20点以下だと認知症の疑いが高いと判定されます。

ちなみに認知症でない人の平均は24点前後、軽度の認知症の人の平均は19点前後です。

が、このテストの評価、実はかなり難しいと言われています。

回答者が自発的に回答したら2点、ヒントを出して回答したら1点など項目ごとに評価のポイントが異なるからです。

ですから、テスト実施者がヒントを出すタイミングを早めたり、その場の雰囲気やテストを受ける側の緊張の度合いなどで結果はかなり変わってしまいます。

この点、ONSEIは誰が見ても判断に迷うことはありません。

AIが膨大な高齢者の学習データをもとに、認知症の疑いが有無の判断をしてくれるからです。

こっそりとテストできる

好きな場所で、リラックスした場所でセルフチェックできるということも、実は大きなメリットと言えるでしょう。

医療機関や施設などで検査ということになれば、医師の予約を取る手間、病院との往復の時間、待ち時間でかなりの時間がかかります。そして医者の前でテストを受けるとなると、どうしても緊張しがちです。

認知症テストを受けたいと思っていても、本人が周囲の眼が気になって受けることができないという方もいるでしょう。

家族が本人に認知症テストを受けさせたいと思っていても、お休みが取れず病院に連れていけないという方も多いと思います。

その点、自分一人で誰にも知られずセルフチェックができるわけですから、認知症テストを受ける本人も、プライドが傷つくことなくこっそりと受けることができるわけです。

ご家族の方も、自宅でのチェックでスクリーニングができるので、病院で本格的な検査を受けるべきかどうか、適切に判断ができます。

 

セルフチェックアプリONSEIを利用するには

残念ながら、この認知症チェックアプリ「ONSEI」は、企業・自治体向けのサービスになっています。

一般の利用者は無料でアプリはダウンロードできますが、団体コードを入力しないとアプリが動かない仕様になっています。

利用するには、どこかから団体コードを貰う必要があります。

商流の流れ

このサービスを提供している、日本テクトシステムズ株式会社と、利用者である一般の高齢者をつなぐ立場である法人や地方自治体が、代理店という形で日本テクトシステムズとライセンス契約を結びます。

利用者の方は、その代理店の経由の利用者という形になります。

ライセンス料は公開されていませんが、やはりAIの開発費用をどこかが負担しなければいけないわけです。

具体的に提供している企業

2024年現在公式ホームページでも導入事例はまだ準備中になっています。

しかしすでにプレスリリースなどで導入を公開している会社はいくつかあります。

①日本生命
認知症保障保険の契約者、被保険者限定サービスとして、このアプリを無料でダウンロードして使うことができます。

②江東区
江東区が契約者となったため、区民にご自身のスマートフォンにて気軽に簡単にチェックを行うことができるようになりました。利用料は無料です。

③シルバー人材センター
東京都三鷹市、兵庫県等、複数のシルバー人材センターの会員の方は、月一回の就業報告に来所する際に、センターに配置したタブレット端末等に搭載した「ONSEI」を実施し、認知機能の状態セルフチェックを行うことができます。

 

このように、現在のところ、個人で利用料を払って「ONSEI」というサービスを購入するということはできません。

ですので、このサービスを使いたいと思った場合、その代理店になっているサービスに申し込むより仕方がないというのが現状です。

地域を選ばずアクセスしやすいという意味では、日本生命かもしれません。日本生命の認知症保障保険に契約すれば誰でもこの認知症セルフチェックツール、ONSEIアプリを利用することができます。

 

ONSEIを作った会社

認知症セルフチェックツールを作った会社は、日本テクトシステムズ株式会社といいます。

アプリの会社と言うとベンチャーかと思いますが、この会社はなんと20年にわたって、医療機器開発を行ってきた会社です。医療機器製造業、第二種医療機器製造販売業の認可を持つ老舗です。

医療施設用液晶情報端末から始まり、2011年に認知機能の変化を評価する検査実施支援システムを提供、徐々に認知症領域のシステムに開発の軸を移してきました。

現在は、ONSEIだけではなく高齢者運転免許更新時の認知機能検査のためのシステム開発も行っています。

2015年に日本テクトシステムズ株式会社として、認知症領域事業を継承し、株式会社ディー・エヌ・エーの100%子会社として再出発しています。

日本認知症ケア学会元理事長・老年精神医学会元理事長の本間 昭先生を顧問に迎え、人工知能AI時代にふさわしい製品開発を行えるような体制を整えた形です。

医療機器開発を長年行ってきた技術的な実績が認められ、国立研究開発法人NEDOの「2018年戦略的イノベーション創造プログラム(5年)」に採択されています。

 

まとめ

自分自身で「認知症かもしれない」と思った時に、すぐに使えるツールができたということは心強い進歩だと思います。

認知症は初期段階で発見されれば進行を食い止めることもできるし、自分の生活スタイルを守りながら最後まで自宅で過ごすこともできるようになります。

もちろん社会全体でみれば、社会保障費の節約にもつながります。

認知症の有病率は、2025年には65歳以上の約5人に1人となると言われています。

認知症になってからの医療費・介護費用の負担を考えれば、認知症を早期に発見できるアプリは、非常に安上がりなのではないでしょうか。

全国の自治体には、社会保障費用を抑えるためにも、この認知症のセルフチェックアプリを誰でも無料で手軽に使えるようにしてもらいたいです。

今後とも介護のICTDX化についての最新の情報をご案内していきたいと思いますのでよろしければこちらからご登録をお願い致します。