認知症のご家族と一緒に暮らしていると、「お財布が見つからない」「鍵がどこにいった?」と、同じ物を探すことがよくあります。
特に病院の予約、銀行へ出掛ける等、大切な予定の前に「診察券がない」「カードがない」と、家中を探し回るのは大きなストレスです。
今回は、認知症の方と暮らすご家族の方へ、「物をなくす」ことについて、なぜ起きるのか、どんな工夫ができるのか、そして便利な「物忘れ防止タグ」の選び方と最新事情をご紹介します。
「物忘れ防止タグ」も日々進化していますので、何かの助けになれば幸いです。
なぜ認知症になると物をなくすのか?
認知症と「物を隠す」「物をなくす」行動の関係
なぜ認知症になると物を隠したり、なくしたりする行動が多くなるのでしょうか。本人から見ると筋の通った理屈があります。
1.根本原因は記憶障害
認知症の中核症状の一つが記憶障害です。特に最近の出来事を覚える力が低下し、物をどこに置いたか自体を忘れてしまうことが多くなります。本人は「しまったこと」や「置いたこと」自体を覚えていないため、実際には自分でしまった物でも「なくなった」ということになります。
2.「盗られた」と思い込む被害妄想
記憶障害が進行すると、自分が「しまったこと」自体を思い出せないため、物が見当たらないと「誰かが持っていった」「誰かに盗まれた」と考えるようになります。残念ながら、身近な家族や介護者が疑われやすいです。これは、記憶障害に加えて「自分が物をなくした」という現実を受け入れたくない気持ちや、自尊心の低下、不安感などが影響しています
3.不安感から物を隠す
「人の名前が出てこない」「予定を忘れる」等、自分でも「おかしい」と思い認知機能の低下にショックを受けると、「大事な物を失くしたくない」「誰かに取られたくない」という思いから、本人なりに安全だと思う場所に物をしまいます。しかし、しまった場所を忘れたり、自分がしまったこと自体を忘れてしまうため、結果的に「物がなくなった」と周囲に訴えることになります。
しまった場所を覚えていられない不安感を強くもつ人は、物をちらかすという行動に出る人もいます。床中に物を並べておけば、どこに物があるかパッと見えるようになるので、本人としては安心なのですが、床に大事なものが散らかり、家が片付かないという結果になります。
下着などを汚してしまった時に、自尊心が傷つき、「自分は迷惑な存在」と思い込んだり、恥ずかしいという思いから、汚れた下着を隠す人もいます。本人からすれば筋の通った行動なのです。
一緒に探して、優しい言葉をかける余裕のある時なら良いでしょう。しかし、そんな時ばかりではありません。
今回は、付き添っての外出に必要な大事なものがなくなるということの対策に絞ってお話をしたいと思います。
医者や病院、金融機関などで必要なもので、失くされると困るものはおおむね以下のようなものではないでしょうか。
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- 鍵
- 財布
- マイナンバーカード、健康保険証、介護保険証、診察券、交通費の無料パス等のカード類
- 携帯電話
- 通帳
- 眼鏡、杖
「物がない」たびに探す家族の負担
送迎や予約の時間が決まっていて出かける時は物を探すのは大きなストレスです。
時間に遅れると予約もキャンセルで、最悪の場合、予約取り直しになってしまいます。
わざわざ病院の付き添いのために、有給休暇を取っている時など、ついイライラしてしまうこともあります。
予約取り直しまでいかなくても、時間に遅れれば、病院や金融機関などで長い時間待たされることになります。
本人にどれだけ言っても、記憶障害という病気の性質上限界があります。こちらがストレスをためないような紛失防止の方法を考えなくてはいけません。
認知症の「物をなくす」行動への具体的対策
外出前の準備
外出前日の夜に必要なものが揃っているか全て確認しましょう。もしも必要な物がなくなっていたとしても、前日の夜であれば、ゆっくりと探せる時間があります。
そして必要なものが入ったバッグについては、ご本人の了解を得て、病院や外出に付き添うご家族の方が預かっておくという形にするのが無難です。
大事なものはバックアップ
健康保険証、介護保険証、銀行のカードやクレジットカード等、紛失した時に再発行に時間がかかりそうなものは、全てカード番号と名義人がわかるように予めコピーを取っておきましょう。
万一カードを家の中で紛失し、カードを停止したり、紛失届を出したりするときに必要です。
また、カードを忘れた時も、カードの番号が分かれば対応してくれるところもあり、用事がなんとか済むこともあります。
失くした物がすぐに見つかる「物忘れ防止タグ」
大事な物がなくなった時に、すぐにどこにあるかがわかる「物忘れ防止タグ」という解決策があります。「スマートタグ」「エアタグ」「スマートトラッカー」とも呼ばれています。子供の見守りやペットの世話、貴重品の探索などいろいろな目的で使うことができます。
基本は、スマホとペアリングして使います。通信にはBluetoothを利用するため、機器同士が接続していれば近くにあるとわかります。

出典:NIKKEI STYLE アーカイブ
「忘れ物防止タグ」の基礎知識 財布や鍵に付けて安心 忘れ物防止&紛失トラブル解決(上)」
位置情報を発信してくれるので、どこに物があるかをスマホで把握できます。このタグを、鍵や財布、マイナンバー、介護保険証など失くしては困るものにつけておけばいいわけです。
Amazon等で検索するといろいろな種類があります。ただ「物忘れ防止タグ」の利用にはいくつか注意点があります。
高齢者の利用に最適な「物忘れ防止タグ」は?
サイズやカラー、対応機種などいろいろな製品があるのですが、どんなポイントに注意して選んだらよいでしょうか?
電池
タグには電池が必要です。電池が切れてしまったらBluetoothで位置情報を発信することができず、スマホ側も位置情報を拾うことができません。
充電器がついているタイプのものもありますが、誰かが充電をしなくてはいけません。日々のことなのでついうっかり忘れてしまうこともあります。
可能な限り電池が長持ちするのものが理想です。一般的なスマートタグの電池寿命は半年から1年と言われています。
電池交換タイプと、使い捨てタイプがあります。
電池交換できるものは、市販の電池を使えるものも多いですが、寿命はせいぜい1年です。定期的に電池を交換してゆかなくてはならず、この電池代もコストに跳ね返ってきます。
使い切りで捨てるタイプのものもあります。この場合一定期間ごとでタグそのものを交換しなければいけません。
最近は、電池残量に応じてスマホに通知をしてくれるようなタグもあります。電池が切れてしまっては、使い物になりませんので通知機能があるタグを選びましょう。
価格
高齢者の場合、紛失しそうなもの全てに物忘れ防止タグをつけたいのが本音です。
しかし、物忘れ防止タグは、1つの値段が2~3000円程度します。100均で扱っているスマートタグでさえ、1,000円台です。(機能はシンプルでも充分に使えるらしいです。)

杖からバックまでつけていたら案外高くついてしまいます。最近は4個セットで販売されていて1個300円から500円程度のものも出てきました。
用途によって使い分けましょう。
サイズ・重さ
言うまでもなく利用する本人の負担にならないサイズや重さのものを選びましょう。
負担だと感じると、せっかくつけた「物忘れ防止タグ」も、本人が外してしまう可能性があります。
タグを付けられないカード類
高齢者が持ち歩かなければいけないカード類は、実はたくさんあります。
今後、健康保険証がマイナンバーカードに統合されると、大切なカードを持ち歩かなければならない機会はますます増えるでしょう。
いくらタグが小型化・軽量化したと言っても、診察券等はまだ紙タイプのものも多いです。こういったカード1枚1枚にタグを貼り付けておくのは、現実的ではありません。
大切な保険証やマイナンバーカードなど、高齢の方が持ち歩くカード類をまとめて、パスケースやカードホルダー等に入れて保管されていると思います。
こういったパスケースやカードホルダーに入る薄型のカードタイプのタグもあります。
しかし認知症の高齢者の場合、大切だと思うカードを、パスケースやカードホルダーからわざわざ出して別の場所にしまいこんでしまったりします。
こうなると、残念ながら、物忘れ防止タグはつけておいても意味はありませんので外出前夜の確認を欠かさないようにしましょう。
タグを使うときの注意点と家族のフォロー
スマホとの連携は家族が管理し、通知は家族のスマホに送信されるように設定しましょう。音で知らせる機能も活用しましょう。
タグがご家族の方が使っているスマホに対応しているかは要確認です。
特にAndroidをご利用の方は要注意です。iOS「探す」というアプリを活用している製品が多いため、iPhoneしか使えないという製品もあります。Androidアプリがあるかどうか確認しましょう。
物忘れ防止タグ最新事情:選び方と使い方
では高齢者の物忘れ防止に最適なタグはどれなのでしょうか。
電池、価格、使い勝手等、製品によって一長一短があります。Amazonで一定の評価があるメーカーのものを選んでみました。
Tile
- iOS・Androidに対応
- 鍵やカバンにつけるタイプ、財布やパスケースに挿入できるカードタイプ、貼り付けができるステッカータイプあり。
- 電池交換ができないモデル:電池寿命3年、電池交換できるモデル:電池寿命1年
- TileをBluetooth®接続範囲外で見失っても、世界中のTileユーザーがあなたのTileを検知してアプリにお知らせしてくれます。
- Tile Mate 【2024最新】スタンダードモデル:1つあたり60グラム
- 1つにトラッカーが2~3000円前後
MAMORIO
- iOS・Androidに対応
- 鍵やカバンに着けるタイプ、財布やパスケースに挿入できるカードタイプ、シールとして貼って書き込みができるタイプがあります。
- 電池交換して繰り返し使えるタイプもあるが、基本、使い捨てタイプ。電池寿命:通常約1年。本製品はお客様で電池交換を行って頂けません。
- 交換サポート『OTAKIAGE』を利用すると、180日以上ご利用頂いたMAMORIOは通常販売価格の最大50%OFFで新しいMAMORIO製品に交換できます。
- 大切なモノから離れると、どこかに置き忘れていないかスマートフォンに通知されます。
- 世界最小クラスMAMORIO:1つあたり3g
最新の紛失防止トラッカーで、シールタイプで貼って使えるものが出ました。
これは半年間で使い捨てですが、厚みがわずか0.6mmなのでカードホルダーやケースなどに貼って使うことができます。付箋紙のように、表面に書き込みもできます。
孫や子供からのメッセージを書き込んでおいて、失くされないようにするという使い方もできます。
気になるお値段ですが、3枚1セット5940円(税込)で1枚2000円です。
使い捨てタイプで電池の寿命は半年なので、便利ではありますが半年毎に買い替えが必要です。
Dyoac
- iOSに対応(Android非対応)
- 電池寿命:最大10年。使い捨てだが超長持ち
- 財布やパスケースに挿入できるカードタイプ、極薄1.6mmクレジットカード2枚
- 重量は12.4 グラムなのでパスケースに入れても大丈夫
電池交換を頻繁にしないで済むのが最大のポイントです。「探す」アプリでボタンを押すと音が鳴って置き場所がわかります。地図でも表示します。大切なモノから離れると、どこかに置き忘れていないかスマートフォンに通知されます。
5個セットエアタグ 楽しい夏
- iOSに対応(Android非対応)
- 5個セットで家計にやさしい物忘れ防止タグ
- 鍵・財布・杖などにまとめて購入可能です。
- わずか6gの超軽量設計
スマートタグのバッテリーは長寿命設計で、スタンバイ時間は最大1年です。電池残量をアプリから確認でき、市販のボタン型電池CR2032を交換可能です。
新しいアプリのダウンロードは不要、「探す」アプリで動作します。
どこにでも貼り付けれるエアタグ用のシールという便利なものも売っています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
いろいろな形状、タイプのものが出ていますので、最適なモノを組み合わせてお試しください。
やっと紙のように貼り付けて書き込みができるタイプのものが出ましたが、電池の持ち時間が少ないのが残念です。
カードタイプのものは、カードホルダーに入れておくことができて便利ですが、認知症の方はわざわざカードホルダーから大事なカードを取り出して別の場所にしまってしまうこともあります。
「これで安心」という万全策はありませんが、紛失防止タグは、日々進化しています。これからもっと長寿命・薄型小型で使いやすいものがたくさん出てくると思います。
便利な道具で、介護ストレス、物探しのイライラが少しでも軽減されますように。
[参考資料]