介護保険証の更新や、病院・施設への提示など、紙の書類管理に煩わしさを感じたことはありませんか?
2024年12月の健康保険証の一体化に続き、いよいよ2026年度からは介護保険証もマイナンバーカードとの一体化が始まります。
「今使っている紙の保険証はどうなるの?」「大切な介護の履歴が滲れたりしない?」と、新しい仕組みに不安を感じるのは当然のことです。
しかし、この変化は単なるカードの統合ではなく、行政の手続きを簡素化し、より安全で質の高いケアを届けるための大きな一歩でもあります。
これから始まる「介護保険証の一体化」が私たちの生活にどう影響するのか、そのスケジュールやプライバシー保護の仕組みについて、ご家族の視点で分かりやすく解説していきます。
変化の激しい時期だからこそ、正しい知識を持つことが家族を守る第一歩になります。
目次
1. 介護保険証はいつから変わる?導入スケジュールと「紙の保険証」の扱い
介護保険証とマイナンバーカードの一体化は、2026年4月から順次スタートしていますが、すぐに今の保険証が使えなくなるわけではありません。
一斉に切り替わるのではなく、お住まいの地域の準備状況に合わせて段階的に進められます。
まず、システムの標準化が完了した自治体から、先行して運用が始まります。
- 2026年(令和8年)4月1日から順次開始:システムの準備が整った自治体から、先行して運用が始まります。
- 2028年(令和10年)4月までの全面運用目標:国はこの時期までに、全国すべての市区町村で活用が開始されることを目指しています。
「急にカードを作らなきゃいけないの?」と心配されるかもしれませんが、ご安心ください。
現時点では、80歳以上の方のマイナンバーカード取得率は約65.8%に留まっており、年齢が上がるほど利用率が低くなる傾向があります。
| 年齢区分 | マイナ保険証利用率 |
|---|---|
| 80〜84歳 | 33% |
| 85歳以上 | 24% |
こうした現状を考慮し、当面の間は現行の「紙の保険証」も併用が可能です。
これに伴って、法律上の整備も含められています。
令和3年の個人情報保護法の改正のより、民間・行政機関・独立行政法人等でバラバラだった3つの個人情報保護法が1つに統合され、個人情報保護委員会がこれら全てを所管し、自治体の条例も含めて全国共通のルールが適用されるようになりました。
この個人情報保護法が一元化されて以降、地方公共団体等に対して①昔からの番号法に基づく立入検査に加えて、②令和5年度からの個人情報保護法に基づく実地調査も実施することとなっています。
一足飛びにすべてがデジタル化されるわけではないのが現状です。
さて、これほどの手間をかけて介護保険証とマイナンバーカードの一体化を進める理由は何でしょうか?
次は、一体化による具体的なメリットを見ていきましょう。
2. 介護保険証とマイナンバーカードの一体化|介護DXが目指す3つのメリット
介護保険証とマイナンバーカードの一体化により、煩雑な書類のやり取りから解放され、より「人間にしかできないケア」に集中できる環境が整います。
その背景には「介護DX(デジタルトランスフォーメーション)」という大きな目標があります。最新の技術を活用して、介護に関わるすべての人(利用者、家族、職員、行政)の負担を減らそうという取り組みです。
2-1. 手続きの劇的な簡素化
これまで介護サービスの申請には、所得情報や年金情報など、いくつもの添付書類を役所へ持参する必要がありました。一体化後は、マイポータルを通じたオンライン申請が可能になり、行政側で必要な情報を確認できるため、書類の用意や窓口への往復といった手間が大幅に省けます。
2-2. ケアの質が向上
新しく構築される「介護情報基盤」を通じて、医療機関での処方箋や検査結果、介護現場でのケアプランなどが電子的に共有されます。最新の健康状態に基づいた最適なケアを、複数の専門家が共通認識を持って提供できるようになります。
2-3. 行政・現場の効率化
ペーパーレス化が進むことで、自治体や介護事業所の膨大な事務作業が軽減されます。事務に追われていた時間が減る分、スタッフが利用者様と向き合い、心の通ったケアを行う時間に充てられるようになります。
では、マイナンバーカードで本当にこんなに便利になるのでしょうか。すでに私たちの生活に浸透している2つの成功例をご紹介します。
2-4. すでに私たちの生活に浸透している2つの成功例
① 確定申告(e-Tax)の普及
東京国税局の資料によると、令和5年分の所得税等の確定申告では、申告人全体の約7割がe-Taxを利用しています。特にマイナンバーカード方式での送信は年々増加しており、自宅にいながらスピーディーに手続きを済ませるスタイルが定着しつつあります。

② コンビニでの証明書自動交付
住民票の写しなどの証明書を、お近くのコンビニで受け取れるサービスも急速に成長しています。
総務省の資料では、令和6年度の住民票の写しの交付件数は約1,713万通に達し、わずか6年前(平成30年度)と比較して9倍以上にまで急増しました。土日祝日を問わず、早朝から深夜(6:30〜23:00)まで全国約56,000店舗で利用できる利便性が、多くの住民に支持されています。
マイナンバーカードを活用しコンビニ等で住民票の写し等の証明書を交付するサービスにより、住民の利便性の向上と窓口負担の軽減が実現しました。

このように、マイナンバーカードを軸としたデジタル化は、すでに私たちの「待つ時間」や「動く手間」を確実に減らしています。
医療機関と介護現場で情報がリアルタイムに共有されると、これまでご家族が「何度も説明しなければならなかったこと」や「把握しきれなかったリスク」が劇的に改善されると期待されます。
①「いつもの薬」の把握ミス
急に夜間救急へ行くことになった際、ケアマネジャーが作成した「最新の服用薬リスト」や「アレルギー情報」を医師が即座に確認できます。ご家族がパニックの中で「何の薬を飲んでいたっけ?」と記憶を辿る必要がなくなり、飲み合わせのミスや副作用のリスクを最小限に抑えられます。
②退院直後のスムーズな連携と申請の簡素化
入院中、病院のソーシャルワーカーと地域のケアマネジャーが同じ基盤上で、リハビリの進捗などを確認し合えます。さらに、介護認定申請に不可欠な「主治医意見書」が電子的にやり取りされるため、ご家族が病院へ書類を取りに行き、役所へ郵送するといった手間がなくなります。情報のやり取りがスピードアップすることで、「退院したけれど、介護サービスの手配が遅れている」という空白期間を作らず、切れ目のないサポートをご家族が受けられるようになります。
このように、情報のデジタル化は単なるデータ共有ではなく、家族が抱えていた「説明の負担」や「書類のやりとりの手間」をシステムが肩代わりしてくれる仕組みです。
次は、具体的にどのような情報がやり取りされるのか、その詳細なリストを見ていきましょう。
3. 「介護情報基盤」で共有される具体的な情報
「介護情報基盤」により、医療・介護・行政の3つの枠組みを超えて、多角的なデータが介護利用者を支える基盤になります。
この基盤に集約されるデータは、単なる数字の羅列ではありません。これまでは別々の場所に保管され、ご家族がその都度説明しなければならなかった情報が、一つの大きなネットワークとしてつながります。
ここで重要なのは、これらの情報の多くは現在、お住まいの「市区町村」が管理しているという点です。
介護保険証とマイナンバーカードの一体化は、各自治体が保有するデータを「介護情報基盤」へ安全に送信・登録することで初めてスタートします。
バラバラに保管されていた情報を一つにまとめ、必要な時に必要な専門家がアクセスできるようにする壮大なプロジェクトです。
今後は、以下のような情報が共有される予定です。
- ①医療情報:これが共有されることで、投薬がスムーズになります。
- ②電子処方箋・薬剤情報:現在飲んでいる薬や、過去に処方された薬の履歴。
- ③主治医意見書:介護認定の際に医師が作成する、医学的な見地からの心身の状態。
- ④電子カルテ情報:既往歴や検査結果など、医師による診断の記録。
- ⑤介護情報:日々の暮らしの質を高めるためのデータです。
- ⑥ケアプラン(居宅サービス計画書):どのような方針で介護を行うかの設計図。
- ⑦サービス提供記録:デイサービスや訪問介護で、その日どのような様子だったかの記録。
- ⑧要介護認定情報:介護が必要な度合い(要介護度)や、その判定理由。
- ⑨資格・給付情報:手続き上のミスや漏れを防ぎます。
- ⑩介護保険被保険者番号:サービス利用に必須の基本番号。
- ⑪所得情報:利用料の自己負担割合(1割〜3割)を判定するための最新データ。
このように、市区町村から非常に多岐にわたる重要なデータが送信されるため、国(個人情報保護委員会)は自治体に対して厳しい監視・監督を行い、情報の取り扱いに細心の注意を払うよう指導しています。
地方公共団体等に対して、①昔からの番号法に基づく立入検査に加えて、②令和5年度からの個人情報保護法に基づく実地調査も実施することとなっています。
それでも「これだけの情報が赤の他人に見られてしまうのでは?」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
次は、非常に重要な「利用者が情報をコントロールする権利」について詳しく解説します。
4. 【重要】介護情報基盤における利用者の情報コントロール
利用者側では、情報の共有を止める権利はありますが、その手続きや将来の運用にはまだ不透明な部分が残されています。
「大切な個人情報が、自分の知らないところで赤の他人に見られてしまうのでは?」という不安は、利用者本人も、ご家族としても当然の心理です。
制度上、利用者の権利を守る仕組みは用意されていますが、実際にそれを行使するにはいくつか高いハードルがあるのが現状です。
①「黙示の同意」と意思表示の難しさ
医療や介護の現場では、待合室のポスターなどの掲示で通知すれば同意を得たものとみなす「黙示の同意」が基本となっています。
もし共有したくない項目があれば窓口で申し出ることで自分の個人情報へのアクセスを制限できますが、お世話になっている施設や病院の窓口で「私のデータは見せないでください」と伝えるのは、心理的に非常に勇気がいることであり、実態としては言い出しにくい仕組みと言わざるを得ません。
②閲覧制限機能の不透明さ
マイナポータルでは、自分の情報を「誰が閲覧したか」という履歴を確認することが可能です。

しかし、特定の情報に対して「この人には見せない」といった詳細な閲覧制限を自分で行える機能が実装されるのか、その詳細は現時点でも明確になっていません。
③本人が亡くなった後のデータ管理
亡くなった方の情報は、法律上の「個人情報」の定義からは外れます。常識的に、事業者は生前と同様に厳重に管理する義務があるとは言うものの、遺族への開示やデータの消去タイミングなど、具体的な運用ルールについては国からの明確な指定がいまだに不足しています。
5. 制度を支える自治体や現場の「準備不足」という現実
残念ながら、国が進める介護DXの理想に対し、私たちの最も身近な窓口である自治体や介護現場の対応は、いまだ道半ば段階にあります。
便利な未来が語られる一方で、実際に制度を運用する自治体や介護現場には課題が山積しています。
国(個人情報保護委員会)が公表した最新のデータからは、私たちの情報を受ける先としての準備が整っていない実態が見えてきます。
5-1. 自治体の7割で「教育研修」が不十分
個人情報保護委員会が公表した令和5年度の立入検査結果(年次報告)によると、地方自治体の管理体制には依然として深刻な不備が指摘されています。
①教育研修の不備
検査対象となった自治体の71%において、職員への教育研修が不十分であると指摘されています。

②現場への伝達不足
運用主体である自治体自身の教育が追いついていないため、そこから情報を得るべき最前線のケアマネジャーや介護施設まで、正しい情報やマニュアルが届きにくい構造になっています。
③地域による情報格差
特に町村部では、安全管理規程の整備率が61%に留まっています。お住まいの地域によって、情報の安全性や提供されるサービスの質に差が出る懸念は拭えません。
5-2. なぜ介護現場の職員は「知らない」のか
日々接しているケアマネジャーさんに質問しても、「まだよく分からないんです」という答えが返ってくるかもしれません。
それは職員一人一人の怠慢ではなく、様々な壁に阻まれているためです。
①頻繁な法改正の波
令和5年4月の法一本化により、自治体側はルールの再整備に追われています。その対応にリソースを奪われ、介護現場や住民への周知広報まで手が回っていないと推察されます。
②「医療」先行の広報
マイナ保険証(健康保険)の広報が先行して行われた結果、介護分野における具体的な運用方法やメリットの周知が大きく遅れています。
地方公共団体等においても、広内の保有個人情報の把握が十分とは言えない都道府県がみられたほか、出先機関の取扱ルールや実際の取扱状況を把握していないケースが少なからずみられています。
このように、管理主体である自治体や介護現場において、情報を守り活用するためのルール作りや教育が追いついていないのが現在の偽らざる実態です。
制度のメリットだけを見るのではなく、このような運用の実態を前提に、私たち家族はどう備えるべきなのでしょうか。
最後に、これまでの内容を踏まえ、私たちが今すぐできる「自己防衛」と心構えについてまとめます。
6. まとめ:末端まで情報が届かない今、家族にできる「自己防衛」
介護保険とマイナンバーカードの一体化については、家族は介護利用者が一番の「情報の番人」として深く関わっていく姿勢が大切です。
両者の一体化は、未来の介護を便利にする可能性を秘めています。
しかし、データが示す通り、現在はまだ「制度が現場に追いついていない」過渡期です。
情報はデジタル化されても、それを取り扱うのは「人」です。
自治体の職員への教育が不十分であるという調査結果がある以上、私たちは意識して「自己防衛」を行う必要があります。
情報の「出し入れ」を意識しましょう。すべての情報を無条件に開示する必要はありません。どの情報を誰に見せるかという事柄について、家族が主体となってコントロールする意識を持ちましょう。
また、自ら情報を確認する癖をつけたいです。現場の職員やケアマネジャーも、最新の情報を得られていない可能性があります。不明な点や不安なことは、「国が決めたことだから」と鵜呑みにせず、その都度自治体の窓口や担当者に確認する姿勢が大切です。
2026年からの数年間は、介護保険とマイナンバーカードの移行期です。新しい仕組みを賢く利用しながらも、「大切なことは自分たちで守る」という意識は持っていたいものです。
今から少しずつ、マイナンバーカードやマイナポータルについて、ご家族で話し合ってみるのも良いかもしれません。
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