介護が必要になったとき、まず検討したいのが介護保険認定の手続きです。
しかし、実際には「介護保険認定申請ってどこでするの?」「介護保険の認定調査票って何?」「65歳未満でも使えるの?」といった疑問が尽きません。
この記事では、介護保険の申請前のシミュレーションから認定の申請、調査内容、介護保険の基準、更新・変更・異議申し立てなど、制度を実際に使いこなすために必要かつ具体的な知識を、私自身の認定経験も含めてわかりやすく解説します。
ぜひ納得のいく介護認定を勝ち取っていただければと思います.
- 介護保険認定とは?まず知っておきたい制度の基本
- 介護保険認定の目的と仕組み
- 対象年齢と適用条件:介護保険認定は何歳から?
- 介護保険認定の流れ|申請から通知書が届くまで
- ステップ1 介護保険認定申請書の提出
- ステップ2 認定調査の実施と内容
- ステップ3 一次判定・二次判定と「認定結果の通知」
- 介護保険認定の基準とレベル|要支援・要介護の区分とは
- 介護保険認定区分・段階・等級の考え方
- 介護保険認定は誰が決める?
- 介護認定審査会と統一基準の現実
- 介護保険認定の変更・やり直し・異議申し立て
- 利用者の状況に変化があった場合の対応
- 変更申請のタイミング
- 認定結果への不満と対応方法
- 1.再調査(区分変更申請)
- 2.介護保険審査会への不服申し立て(審査請求)
- 認定結果の対応:まとめ
- 介護保険認定を受けるためのシミュレーションと準備
- 介護保険認定調査シミュレーションとは?
- 限られた時間内で伝えるための重要性
- 事前準備に役立つチェックリスト
- 「何をどう伝えるか」で変わる認定のリアリティ
- まとめ|介護保険認定を正しく知って、現実的に備える
介護保険認定とは?まず知っておきたい制度の基本
介護保険認定の目的と仕組み
介護が必要になったときに、公的な支援を受けるための入り口となるのが介護保険認定です。これは、本人の心身の状態を調べたうえで、「どの程度の介護が必要か」を市区町村が正式に判断する制度です。
介護認定がなければ、公的な介護保険サービスを使うことはできません。
この認定によって、「要支援1・2」または「要介護1~5」といった区分が決まり、それに応じて利用できるサービスや支給される金額の上限(介護保険限度額)が定まります。
認定を受けると「介護保険認定証」または「介護保険認定証明書」が交付され、そこには認定区分や有効期限、サービス利用の上限などが明記されています。この証明書は、ケアマネジャーとのケアプラン作成や、介護サービスを契約する際の基本的な書類となります。
対象年齢と適用条件:介護保険認定は何歳から?
介護保険認定を受けられる年齢には、2つの大きな区分があります。
ひとつは65歳以上の方(第1号被保険者)で、この年齢を超えていれば、介護が必要になった理由にかかわらず、申請すれば介護保険のサービスを利用することができます。たとえば、老衰や生活機能の低下といった一般的な加齢に伴う症状でも認定対象になります。
もうひとつは、40歳以上65歳未満の方(第2号被保険者)です。この年代の方でも、特定疾病と呼ばれる病気が原因で介護が必要な場合は、介護保険認定の申請が可能です。対象となる特定疾病には、パーキンソン病、脳梗塞後遺症、関節リウマチ、末期がんなどが含まれており、厚生労働省によって16疾患が定められています。
つまり、「65歳未満でも申請できるのか?」といった疑問に対しては、「条件を満たせば申請可能」というのが答えです。ただし、認定されるには医師の診断書(主治医意見書)や日常生活の困難さを正確に伝えることが重要です。
認定区分に応じたサービスは共通です。1号・第2号ともに「要支援1・2」「要介護1〜5」などの認定結果とそれに応じた限度額・サービス内容は同じです。
ただし、第2号被保険者は、「介護が必要な原因が特定疾病かどうか」が重要な審査ポイントになります。
このため、主治医意見書の中でも特定疾病に関する記載が重要視され、主治医の診断がより大きなウエイトを占める傾向があります。
このように介護保険のサービス利用には、まず介護認定の取得が必須です。介護認定がないと、「公的介護サービスが必要な人のグループ」に入れてもらえません。この入口が介護保険認定なのです。
介護保険認定の流れ|申請から通知書が届くまで
では、これらの介護保険の認定申請をしてから最終的な認定通知が届くまで、どのようなプロセスで決まるのでしょうか。
ステップ1 介護保険認定申請書の提出
介護保険サービスを利用するには、まず「介護保険認定申請書」を市区町村の窓口に提出する必要があります。
申請の手続きは、本人だけでなく、家族やケアマネジャー、地域包括支援センターの職員が代行することも可能です。
申請先は、介護保険の認定を受ける本人が住民票を置いている市区町村の介護保険担当課です。家族が他県に住んでいても、介護保険の申請先は、介護サービスを利用する本人が住む市区町村です。
郵送やオンライン申請に対応している自治体も増えてきました。ですが、この辺りは市区町村によって対応が分かれているので確認が必要です。
申請時に必要な書類としては、以下のものがあります。
- 介護保険認定申請書(市区町村の所定様式)
- 被保険者証(介護保険証)
- 主治医の情報(医療機関名・医師名など)
ここで、介護保険証があるのに、何故あらためて認定申請をしないといけないのか疑問が湧いてきます。

介護保険証(正確には「介護保険被保険者証」と言います)とは、前章で述べた、第1号被保険者になりましたから、公的介護保険サービスを受ける資格があるという証明で、65歳の誕生月に介護保険を払っている人全員に交付されます。
公的介護サービスは、介護度に応じて受けられるサービスが決まっていますので、介護度を判定するための介護認定が必要な訳です。
申請が受理されると、市区町村から「主治医意見書」の作成依頼が本人のかかりつけ医に送付されます。これは審査に必須の書類で、医師の医学的所見に基づいて心身の状態が記録されるものです。
「医師の診断なしで訪問調査だけで認定は受けられないのか?」という疑問も湧いてきますが、介護保険認定では訪問調査と主治医意見書の両方が揃って初めて判定に進めます。主治医意見書がないと、認定そのものができません。
ただし、特定の主治医がいない場合でも申請は可能です。直近で受診した医療機関があれば、その医師に相談して意見書を書いてもらうことができます。もし医師との接点が全くない場合には、市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに相談すれば、認定審査の協力医を紹介してもらえる場合もあります。
ここで注意が必要です。医師が利用者本人の介護の実態をよく知らない場合、「軽く書かれてしまって要介護度が低くなる」ケースは実際にあります。
そのため、日常生活で困っている具体的な様子を、あらかじめ医師の方に十分に分かってもらう必要があります。家族の側からメモにまとめて渡す、写真を見せるなど補足情報を伝えることも効果的です。
主治医には、日常生活で困っている様子や介護の実態をできるだけ具体的に伝えておくと、より実態に即した内容の意見書につながります。
このあと、認定調査の日程調整が行われ、訪問調査(ステップ2)へと進みます。
ステップ2 認定調査の実施と内容
申請後、次に行われるのが「認定調査」です。これは、介護保険認定のための訪問調査で、市区町村の職員や委託された調査員(ケアマネジャーなど)が自宅や施設に訪問し、本人の心身の状態や日常生活の困難さを確認します。
調査は通常30分〜1時間ほどで、家族が立ち会うことも可能です。
調査は、「介護保険認定調査票」という全国共通の様式に基づいて行われます。内容は以下のようなカテゴリに分かれた基本調査74項目+特記事項から構成されており、主に以下の点が確認されます:
- 身体機能・起居動作(起き上がり、歩行、移乗など)
- 生活機能(食事、排泄、入浴、着替えなど)
- 認知機能(見当識、意思の伝達、短期記憶など)
- 精神・行動障害(徘徊、不潔行為、暴言など)
- 社会生活への適応(買い物、金銭管理、薬の内服など)
認知症の症状や特別な医療管理(例:CPAP装着、インスリン自己注射、末期がんなど)といった、一般的な質問項目ではカバーしきれない事情がある場合は、「特記事項」に詳しく記録されます。
介護保険認定の申請に関する書類は、自治体の所定様式があります。こちらから検索して探せます。
介護を申請する本人が、認定調査当日張り切って元気よく歩いてしまったため、介護度が軽くしか認定されなかったというケースも少なくありません。
家族が立ち会う場合は、日頃の介護の様子や困っている点を、できるだけ具体的に補足説明することが大切です。認定調査員は初対面の方で、認定にかける時間は最大1時間程です。
介護保険認定の調査項目は公開されています。最近では、Web上や自治体の配布資料などで、調査項目を事前に確認するシミュレーションということもできるようになりました。

厚生労働省 「認定調査票」より 抜粋
介護保険認定の調査項目のリストに、事前に目を通しておくことで、自分たちの現状を整理し、調査時に伝え漏れがないよう備えることができます。
調査の結果は、次のステップである「一次判定・二次判定」の材料として使用され、主治医意見書とあわせて総合的な判定が行われます。
ステップ3 一次判定・二次判定と「認定結果の通知」
認定調査と主治医意見書の情報が揃うと、一次判定と二次判定という2段階の審査が行われます。
まず一次判定では、調査票に記入された74項目の情報がコンピューターに入力され、全国共通の判定ソフトを用いて自動的に要介護度が推定されます。ここでの結果はあくまで機械的なもので、日常生活の細かい事情や医療面の特記事項は反映されません。
次に二次判定として、介護認定審査会が開催されます。審査会には医師、看護師、ケアマネジャー、福祉関係者などの専門家が参加し、一次判定の結果に加えて主治医意見書や特記事項を踏まえた総合的な判断を行います。
ここで最終的に、「非該当」「要支援1・2」「要介護1〜5」のいずれかが決定されます。

厚生労働省老人保健課「要介護認定の仕組みと手順」より抜粋
審査が終わると、市区町村から介護保険認定通知書が送付されます。原則として申請から30日以内に結果が出ることになっていますが、主治医意見書の到着が遅れたり、市区町村が実施する審査会の日程が合わなかったりすることで介護保険認定の遅れが発生することもあります。
認定結果は介護保険認定証にも反映され、利用できる介護サービスの種類や上限額を決める重要な資料となります。
もし「非該当」や想定より低い認定区分だった場合には、不服申し立てや再申請も可能です。
では、介護保険認定申請して、非該当とされることはどのぐらいあるのでしょうか?
調べてみましたが、新規申請者に対する認定率はどのくらいなのかという全国的なデータは、厚生労働省から公表されていません。
テストで言えば合格率が発表されていないのと同じです。申請してみないと認定されるかされないかわからないというのが現状です。
介護保険認定の基準とレベル|要支援・要介護の区分とは
介護保険認定区分・段階・等級の考え方
介護保険では、認定調査と主治医意見書をもとに、「要支援1・2」または「要介護1〜5」のいずれかに介護度が区分されます。これらは介護の必要度とサービスを受けられる上限額(限度額)を決める重要な指標です。
- 要支援1・2
介護予防が中心で、自立生活の維持や軽度の介護サービスが対象。
(例:掃除・買い物の支援、リハビリを兼ねた通所介護など。)
- 要介護1〜5
数字が大きいほど介護の必要度が高くなり、受けられるサービス量や費用の限度額も増えます。
(例:要介護1は部分的な介助が必要、要介護5はほぼ全面的な介護が必要な状態。)
区分 | 生活の目安 | 月額の利用限度額(例) |
要支援1 | 家事や買い物など、一部で日常生活に支援が必要 | 約5万円 |
要支援2 | 軽度の身体介助や生活支援が継続的に必要 | 約10万円 |
要介護1 | 立ち上がり・移動などで一部介助が必要 | 約17万円 |
要介護2 | トイレ・入浴などで部分的な介助が必要 | 約20万円 |
要介護3 | 移乗・衣服着脱・食事などで全面介助が必要 | 約27万円 |
要介護4 | 多くの生活行為で全面介助が必要 | 約31万円 |
要介護5 | 日常生活のほぼすべてで介護が必要 | 約36万円 |
月額の利用限度額(例)」は、介護保険が給付の対象とするサービス費用の上限額です。つまり、「介護サービスにかかる費用の総額」であり、利用者が実際に支払う金額ではありません。
利用者の自己負担は原則として1割(所得によっては2割または3割)になります。
介護保険の制度開始当初(2000年)から要支援・要介護1〜5の区分は変わっていません。
月額の利用限度額は、2000年時点では要介護5で約27万円程度でしたが、年々制度が拡充され介護サービスも種類も増えました。
2015年の介護保険改定で、要介護5で362,170円まで引き上げられました。物価上昇や介護サービス単価の引き上げが背景です。
2015年以降は、利用限度額は増えておらず、高所得者の自己負担増を求める方向に政策が変更されています。一定以上所得者の自己負担が2割になりました。2018年8月からは現役並み所得者は3割負担まで引き上げられています。
介護保険認定は誰が決める?
介護保険の認定は、まず一次判定としてコンピュータ判定が行われます。
ここでは認定調査票の74項目が全国共通のアルゴリズムにかけられ、要介護度が機械的に算出されます。ただし、この段階の判定は日常生活の個別事情や医療面の特記事項が反映されにくいのが現実です。
次に行われる二次判定では、介護認定審査会が開かれます。審査会は医師、保健師、ケアマネジャー、福祉関係者などで構成され、一次判定の結果や主治医意見書、特記事項を総合的に検討します。最終的な「要支援1・2」や「要介護1〜5」の決定は、この審査会の合議によって行われます。
つまりコンピューターの診断機械的な数字に対して、合議制で決めているわけです。誰か特定の人物が責任を持って決めているわけではありません。不公平が生じないような配慮はありますが、責任の所在が曖昧になりがちです。
介護認定審査会と統一基準の現実
そして、重要な点ですが、この合議制の審査に当たって、全国で統一された判断の基準というものは存在しません。
なぜなら審査会は市区町村単位で設置され、地域ごとに運営方針や判断のスタンスが異なるからです。同じような状態でもA市では要介護1、B市では要支援2と判定されることがあるのです。
実際、現場からは「この自治体は判定が厳しい」「更新時に要介護度が下がりやすい」といった声も聞かれます。
この背景には、介護保険制度が国の枠組みの中で運営されつつも、最終的な介護保険サービスの運営責任と裁量は市区町村にあるという仕組みがあります。
実際に要介護認定率の地域格差が問題とされています。
ここで言う要介護認定率とは、65歳以上の高齢者に占める要介護認定を受けた人の割合を言いますが、これは都道府県により大きな違いがあります。

内閣府ホームページ 「2.要介護(要支援)認定率を巡る現状」より抜粋
やや古い資料ですが、要介護(要支援)認定率の都道府県地域差(2015年度)をみると、要支援認定率の全国平均は5.1%ですが、7.3%(和歌山県)から2.5%(山梨県)まで2.88倍の地域差があることがわかります。
同様に、要介護認定率の全国平均は12.9%であるが、15.8%(秋田県)から10.7%(埼玉県)まで1.48倍の地域差があります。
これらを合計すると、要介護(要支援)認定率では、22.2%(和歌山県)から14.3%(埼玉県)まで1.56倍の地域差があることが確認できます。
もちろん地域によって75歳以上の高齢者が多い地域であれば要支援の認定率が高くなるわけですから、一概に地域差があることが問題ではないとは思います。
しかし全国一律と思われている介護制度でも、地域によって判断には地域差があるのではないかという疑問が生じるのです。
初回の認定審査時と認定更新時で審査基準が一貫していないという課題もあります。
更新時には介護度が急激に下がってしまう事例は現実に起きています。
介護保険を利用する本人の状態がそれほど大きく変わっていないのに、介護の認定度が急激に下がってしまうと、これまで受けられた介護サービスの種類が限定されてしまうという不利益が生じてしまいます。
このように、介護保険制度は過去20年、修正と手直しを繰り返してきた制度で、完全に固定された制度ではありません。現に今でも介護保険の改正は3年毎に行われています。
認定が一旦決まっても、常識的に考えて納得ができない場合には、再度、認定審査をしてもらうことは、現実的に行われています。
介護保険認定の変更・やり直し・異議申し立て
利用者の状況に変化があった場合の対応
介護保険の認定は一度決まると原則として有効期間内は同じ区分が適用されます。認定の有効期間は、新規申請及び区分変更申請で原則6か月、更新申請で原則12か月です。
ただし、状況が安定している場合は、ご本人の状態から有効期間が36か月から48か月の間で変更されることもあります。
がんや認知症で、長期にわたり状態大きく変わらず安定しているケースはこのように長期の有効期間が適用されることがあります。
しかし、利用者の心身の状態が急に変化した場合には、区分変更(変更申請)を行うことで認定の見直しが可能です。
たとえば次のようなケースでは、介護度の再判定を検討することが一般的です。
- ケガや病気で状態が悪化した場合(例:転倒による骨折など)
- 入院や退院によって生活状況が変わった場合
- 認知症の進行などで介護の必要度が高まった場合
変更申請のタイミング
変更申請のタイミングは、状況の変化が生じた時点で速やかに行いましょう。
手続きの流れは新規申請とほぼ同じで、市区町村の担当課に「要介護認定変更申請書」を提出し、再び訪問調査や審査会を経て新しい区分が決定されます。新規申請と同じプロセスをたどるので、同じぐらいの時間がかかります。
入院していて、退院する場合ですが、自宅での生活は、病院の生活とは異なるため、退院後の生活の見通しが立ったタイミングで申請するのが一般的です。
ご家族との話合いで、介護保険のご利用者の方が転居・引越しを伴う場合には、特に注意が必要です。
介護保険は住民票のある市区町村ごとに運営されているため、転居した場合は介護保険資格の異動手続きが必要になります。
新しい住所地で認定を引き継ぐ手続きを行わないと、サービスが一時的に利用できなくなる恐れがあります。
転出先と転入先で情報連携は行われますが、調査のやり直しや認定の引き継ぎに時間がかかる場合も想定されます。事前に転出先及び転入先の自治体へ確認しておきましょう。
認定結果への不満と対応方法
介護保険の認定結果に納得がいかない場合は、不服申し立て(審査請求)や再調査を求めることができます。
現実に認定の判定結果に不満がある、もしくは納得できないケースは数多くあります。

ブログ「介護認定調査員の部屋」より抜粋
ここでは、再調査のやり方や具体的な手順について解説します。
まず認定結果に納得がいかない場合は、認定を行った市区町村の介護保険担当課に結果への不満を伝え、認定結果を変更できるか可能性を確認します。
現実的に取りうる手段としては、不服申し立て(審査請求)または再調査(区分変更申請)の2つがあります。
1.再調査(区分変更申請)
市区町村に、利用者に新たな状況変化があったという理由で、認定申請を行う方法です。
流れは新規申請と同じで、訪問調査→一次判定→二次判定→結果通知となります。
メリットとしては、不服申し立てに比べて、結果が出るのが早いことです。申請から原則として30日以内に結果が出されます。(ただし、市区町村により認定審査の結果が出るのに時間差はあるので、必ず30日以内に認定結果が出るとは限りません)
状態変化を反映して、病状が悪化した、介護の手間が増えた等の理由で新しい情報をもとに判定されます。
審査会の「判定の妥当性」を否定するのではなく、新しく状況が変わったので再度認定申請を行うという建前です。
ですから認定結果を受けた直後に再調査を行っても、認定が変わらない可能性があります。
「状況変化があったか」が認定審査の焦点になります。このため、認定結果が覆すには、状況が変化したということを説明する必要があります。
少しだけ時間を置いて新たに身体状況が変化したという理由をつけて再申請をする方が認定が通る可能性が高くなります。
2.介護保険審査会への不服申し立て(審査請求)
市区町村の下した認定結果に対して、調査や判定そのものが不適切だと思う場合は、都道府県に設置された介護保険審査会に対して審査請求を行い、認定結果の妥当性そのものを争います。
この場合、判定過程や基準の適正性が審査対象になります。認定の妥当性を法律的にチェックできるというメリットはあります。
判定過程や基準の適正性を問うているわけですから、状況が変わっていない場合でも覆る可能性はあります。
しかし最大のデメリットは時間がかかることです。結果が出るまで、数か月かかることもあります。認定の妥当性に疑問があるわけですから、手続き不備の証明が必要になり専門的な書類提出を要求されることもあります。
認定結果の対応:まとめ
現実的に高齢者を介護する家族という立場で考えた場合、再調査(区分変更申請)の方がより現実的です。
再調査の際に確実に納得のいく判定に変更してもらえるように、利用者の状況資料や説明資料を集める方が実際には早いです。タイミングを見て早めに再調査の申請しましょう。
介護保険認定を受けるためのシミュレーションと準備
介護保険認定調査シミュレーションとは?
介護保険の認定調査は、訪問調査員との面談で行われる全国共通の74項目に基づく調査です。その場でしっかりと状況を伝えるため、事前準備として有効なのが「認定調査シミュレーション」です。
多くの市区町村や介護支援事業所では、認定調査票の質問項目を事前に確認できるチェックリスト(PDF)を公開しています。事前に確認して回答を準備しておくことで、調査当日の伝え漏れを防げます。
厚生労働省が定めた標準の認定調査票(概況調査)はこちらからダウウンロードできます。
アプリで一次判定シミュレーションができるアプリも介護ソフトの会社から無料公開されています。
ウエブ版はこちらです
どちらのシミュレーションツールも厚生労働省が定めた内容でコンピュータ判定のデータなので、質問項目は同じです。
実際に、シュミレーションと判定をやってみると、その場の状況と回答次第でかなり変わる可能性があることがお分かりいただけると思います。
コンピュータ判定できない特殊な状況は、特記事項として情報を審査会にあげることになっています。ですから数値化できないが本人の状況を伝える「特記事項」は認定審査では重要視されます。
この特記事項に、どのように記載してもらうかで認定審査の結果が変わってきます。
限られた時間内で伝えるための重要性
認定調査の所要時間は、一般的に30分〜1時間程度です。認定調査員の立場に立って考えてみてください。わずか1時間で、本人の日常の様子がどれほどわかるものでしょうか?
しかし、この限られた時間内で、調査員に生活状況や困りごとを正確に伝える必要があります。
認定調査員はかなり多忙です。全国的な平均データは見つかりませんでしたが、認定調査員が1月に抱える件数は、およそ30~40件と言われています、
平均して、毎日1~2件であれば、余裕がありそうに思いますが、認定調査の訪問のための移動時間がかかります。また認定調査後の調査票の作成から内容確認までおよそ2時間はかかっているという調査があります。(「要介護認定事務の円滑な実施に係る調査研究事業報告書」)
この調査によれば、認定調査票の作成は最も処理時間が長い業務とされており、1件あたり1時間以上と回答した市町村の割合が68.3%でした。平均処理時間は94.2分です。
業務量には個人差や自治体ごとの状況も大きいです。業務効率化のための措置が整った自治体では件数が増加し,一部では月50件以上に達することもあるようです
つまり、訪問のための往復時間とその後の資料作成を考えると、1日に2件が限界で、1回の認定調査の時間は長くても1時間ということが現実なのです。
介護認定では、この時間内に利用者の日常の状況を正しく伝えなくてはなりません。
調査は時間との勝負です。立て板に水のように全てを話すのは逆効果の場合もあります。
限られた時間で正確な状況を伝えるためには、調査前の準備がとても大切です。
調査項目に沿って要点を整理し、メモやチェックリストを参照しながら、簡潔かつ具体的に回答できる準備が重要です。
シミュレーションツールを確認しておくことは、短時間で当日訪問した認定調査員に利用者の状況を的確に伝えるために「事前に何を準備すればいいのか」を判断する大きな助けとなります。
事前準備に役立つチェックリスト
介護保険の認定調査は、わずか30〜60分程度の短時間で本人の心身状態を把握し、介護度を判定する重要なプロセスです。以下のチェックリストを活用すると、認定調査員に実態を効果的に伝えられます。
1.主治医への相談
主治医意見書は、介護度の判定において非常に重要な資料です。
調査前に主治医に日常生活の困りごとや介助の実態を詳しく伝えておきましょう。
特に認知症やパーキンソン病などは、症状が日によって変わることも多いため、典型的な症状が出たときの状況を記録して共有すると効果的です。
2.日常生活の記録(写真・動画)
調査員は本人の生活の一部しか見てくれません。しかも認定調査時間はわずか1時間です。
このため、家族や身近な介護者の記録が、利用者の現実を伝える鍵となります。
この時、スマホによる写真や動画は強力な武器になります。
例えば、以下の項目を簡潔にメモして動画や写真として記録しておくと、調査時にスムーズです。
- 食事:自力で食べられるのか、刻み食や介助が必要か
- 排泄:トイレまで自力で行けるか、失禁の有無
- 入浴・着替え:どのくらい自立していて、どこに介助が必要か
- 認知症症状:徘徊、夜間せん妄、記憶障害の有無
写真や動画で記録し、日常のメモに沿えましょう。
いつの写真かという説明をすれば認定調査員の方に利用者の方の生活実態をそのまま伝えることができます。
認定調査員の方も動画で室内の歩き方を見れば、トイレにゆくのにどのくらい時間がかかるか、着替えにどれくらい時間がかかっているかなどの生活実態をより正確に推定できます。
3.福祉用具の導入履歴
介護ベッド、手すり、歩行器などすでに使用している用具やサービス利用歴がある場合は、記録をまとめておきましょう。いつ頃から福祉用具を使い始めたのかというポイントも大切です。
これにより、本人の身体状況や生活の困難度がいつから、どれぐらい変化したのかを客観的に示すことができます。
4.身近な介護者や家族の同席は必須
認定調査員は原則として、介護保険の利用者本人へのヒアリングを中心に行いますが、認知症や体調変動がある場合、本人の回答が正確でないことも少なくありません。
特に軽度な認知症の場合、一見したところ普通の受け答えができることもあり、介護度をそれほど深刻に認識してもらえないこともあります。
ですから、家族やケアマネジャーが立ち会い、日常の状況を補足説明することが極めて重要です。
家族が同席することで、調査員が本人の実態をより正確に把握でき、過小評価や過大評価のリスクを防ぐことにつながります。
家族が同席できない場合は、ケアマネジャーの方と事前に十分準備し、日常生活の記録や写真、メモなどで客観的な事実が伝わるようにします。
「何をどう伝えるか」で変わる認定のリアリティ
このように、短時間の調査の後、認定調査員の特記事項にどのように書いてもらえるかがポイントです。
そのためには、日常生活を送る上での事実を客観的かつ具体的に伝えることが非常に重要です。
例えば「歩けません」と伝えるだけでは不十分です。認定調査員の方は、歩行が不自由な方ばかりを訪問しているのです。
「1日3回トイレまで歩くが、●月●日に廊下で転倒したことがある。転倒後の歩行速度はこれぐらい」と伝えて動画を見せることで、調査員は利用者の日常生活と介護の実態を正しく把握できます。
介護者の主観的な意見や感想よりも、「客観的な事実+頻度+具体例」を伝えることが、認定の過小評価を避け、実態に即した認定取得につながります。
事前準備とどうやって伝えるかによって、介護認定は変わる可能性があるという事実を知っていただきたいのです。
まとめ|介護保険認定を正しく知って、現実的に備える
介護保険の認定までの流れをご説明してきました。
現実には、認定審査はわずか1時間で、それでその後の介護認定が決まってしまいます。
自治体ごとの判断基準で運用されており、全国統一基準というものはありません。
しかし、介護保険制度は、高齢化社会のインフラとして不可欠なものです。
だからこそ、この制度を正しく理解し、うまく使いこなすことが肝心です。
まず、申請から結果通知までの流れを押さえておきましょう。
介護認定は、準備と客観的な事実の積み重ねで差がつきます。これは認定調査も医師の意見書も同じです。客観的事実として、スマホの動画、写真を活用しましょう。
そして、認定調査当日は、ご利用者本人だけでなく家族やケアマネジャーが同席し、日常生活の困りごとを正しく伝えることが、実態に合った認定につながります。
そして、状況が変わったら区分変更申請(再調査)をお願いしましょう。
ちょっとした知識と行動の差が、納得できる介護認定につながり、本人と家族の生活を守る力になります。
介護保険はまだ改善の余地がある制度ですが、知ったうえで賢く使いこなすことが、介護生活を少しでも安心にする近道です。
[参考資料]