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介護 着せやすい服|前開きでおしゃれに!介護をラクにする新しい服選びのコツ

公開日:2025.10.22
最終更新日:2025.10.22

在宅介護でお悩みの1つは、着せやすい服がないということではないでしょうか。

「着替えに時間がかかる」「服を脱がせるときに痛がる」といったお悩みは多くの方が経験しています。

ネットで便利で着せやすい服を探してもなかなか見つかりません。

やっと見つけても、いかにも「介護」という感じで普段のデイサービスに着ていける服ではないという場合が本当に多いのです。

こんなお悩みを解決できそうな製品を今年のHCR展2025で見つけましたのでご紹介します。

そんな中、前開きで着せやすく、見た目もおしゃれな介護用のが発表されていました。

ZOZOなどのファッション企業も参入し、介護とおしゃれの両立が可能になってきています。

本記事では、「介護で着せやすい服」をテーマに、介護の着替えをラクにする工夫や最新の取り組みをご紹介します。

目次

介護の着替えはなぜ大変?現場と家庭のリアルな課題

着替えに時間がかかる理由

介護現場では、「着替え」は一見シンプルな動作に見えて、実はとても時間と気遣いを要する作業です。

高齢になると関節の可動域が狭くなり、腕や脚を通す動きが難しくなります。特に肩や肘、股関節などを大きく動かすと痛みを感じやすく、無理に動かせば皮膚や筋肉を傷めることもあります。

また、脳梗塞の後遺症などで麻痺や拘縮(関節が固まって動かない状態)がある場合は、ほんの少しの動きでも強い痛みが出ることがあります。

そのため、介助者は相手の表情や呼吸を見ながら、少しずつ服を着せていかなければなりません。

要介護度にもよりますが、着替えのたびに体勢を変えなければならない場合もあります。

ベッドから起こす、横向きにする、腕を支えるなど、介助者の腰への負担も非常に大きいのが現実です。毎日繰り返す動作だからこそ、「少しでもラクに」「少しでも安全に」行いたいというのが本音です。

しかし、通常の服は、当然ながら、健常者が自分で着るということが前提に設計され、縫製されています。

どこかに着せやすく、普段に着られそうな服は売っていないものかと、私も何度もネットを探しましたが、これが本当に売られていません。

介護家族・介護職員の声

時間がかかるなら、全て介助者側が着替えを手伝ってしまえばよいと思われるかもしれませんが、着替えという行為も、本人の力を引き出す日常の機会でもあるのです。

実際に介護に携わる方々からは、こんな声が聞かれます。

「急がせず、本人ができる範囲で自分の力を使ってもらうようにしています」
「自分でボタンを留めたり、袖を通したりできると、“できた”という達成感がある」
「着せやすい服があれば、介助の手間が減るだけでなく、本人の自立も支えられる」

介護の着替えでは、「介助すること」と「自力でやってもらう」ことのバランスがとても大切です。

介護される本人が少しでも自分の力で動けるように、せかさず、見守る時間を持つことは、手指のリハビリにもなり、本人の自信につながります。

本人が着やすい服は、結果的に介助者の時間的な負担を軽くするだけでなく、本人の「できること」を増やすサポートにもなります。

ところがこういう服はオンラインショップでもなかなか見つかりませんでした。

介護のデザインHCR2025最前線|おしゃれと機能性を両立した最新アイテム

デザインと着せやすさの両立

こんな課題感を持ちながら、2025年の国際福祉機器展(HCR)に立ち寄りました。

偶然HCR展のメインステージで「介護を支えるデザイン」のファッションショーが行われていました。

テーマは「インクルーシブ」。これは、「誰をも排除しない・すべての人を包み込む」という意味です。

つまり、ファッションにおいては、「性別・年齢・体型・障がい・ライフスタイルの違いに関係なく、誰もが快適に、そして自分らしく着られる服を作ろう」という考え方を指します。

従来の介護の服といえば、機能重視でデザイン性が犠牲になりがちでしたが、近年はその常識が変わりつつあります。

「介護用だから特別」というよりも、「誰でもラクに着られて、見た目も自然に美しい」ことを目指した服のファッションショーが行われていました。

腕を上げ下げすることが難しい人向けに、胸の部分だけが取り外せるような服がランウェイで披露されていました。しかし、見た目は黒をベースにした、スマートなデザインの服です。

モデルさんが着ていた服はデニムですが、司会の方が触ってみたところ非常に柔らかいと感想を仰っていました。

このように、腕部分を取り外し可能にし、サイドスリットを大きく広げ、腕や肩を大きく動かす必要がないようにしてマジックテープやスナップボタン、伸縮素材などを組み合わせることで、着替えの手間を最小限に抑えられるよう工夫されています。

デザイン性の高い介護ウェアがもたらす心理的効果

介護服に「おしゃれ」という要素が加わると、介護を受ける側だけでなく、介護をする側にとってもプラスの変化が生まれます。

まず、「おしゃれをする喜び」は心のエネルギーになります。服を選ぶ、鏡を見る、褒められる。こうした一つひとつの行動は、自己肯定感の回復につながります。

また、身だしなみが整うと外出への意欲も高まり、地域活動やデイサービスへの参加もスムーズになります。

介護をする側にとっても、「今日の服、素敵ですね」といった会話が増え、着替えの時間がポジティブなコミュニケーションの場へと変わっていきます。

ファッションショーでモデルさんが着ていた「袖がとれる服」は、HCR展のどのブース展示なのか分かりませんでした。

しかし偶然、「インクルーシブウェア」というコンセプトで出展していたZOZOのブースを発見することができましたので、ご紹介したいと思います。

見た目は一般的なファッションと変わりませんが、着せやすさ・動きやすさ・洗いやすさを高いレベルで両立しています。

「介護の服=特別」という感じはなく、「誰でも普段に着やすい服」という発想が感じられるものでした。

ファッション企業も参入!介護ウェア市場の広がり

インクルーシブファッションという新しい潮流

ファッション業界では「インクルーシブ」という概念が注目されつつあります。

年齢や体型、性別、障がいの有無に関係なく、誰もがファッションを楽しめるようにしようという理念です。

「介護が必要だから特別な服」「身体に不自由があるから好きな服を着れない」という境界をなくそうとしています。

前開きの着せやすいオシャレなパンツ

2025年の国際福祉機器展(HCR)で、このようなインクルーシブファッションを展開していたのが、ZOZOとアダストリアです。

見た目は一見普通のパンツと変わりませんが、裾の部分までを前開きで9分まで広げることができます。生地素材は、柔らかなストレッチ素材なので、介護する側は、これまでよりは楽にズボンを着せられそうです。

車いすにパンツを広げておけば、座ったまま前から着脱ができるという優れた構造です。

出典:日本経済新聞

しかし、着てしまえば、普通のパンツです。

出典:ZOZOTOWN

介護を受ける側も「世話をしてもらっている」という負担感が減り、少しでも気が楽になります。

少なくとも、ズボンを履かせるのに時間を従来より短縮できそうです。

今年はパンツの展示だけでしたが、外出用のジャケット等も期待したいところです。

ZOZOやアダストリアの新しい取り組み

ところでなぜこのZOZOとアダストリアが組んでこのような展示をしていたのでしょうか。

ZOZOは、独自の生産支援プラットフォーム「Made by ZOZO」を展開しています。

これはアパレル支援を目的とした1点からの受注生産・無在庫販売が可能になる仕組みです。これにより「欲しい人にだけ、必要な数を作る」というサステナブルなファッションを実現しました。

2024年にはZOZOTOWN内でインクルーシブアイテムを展開できる「キヤスク with ZOZO」を開始しました。

これは、Made by ZOZOというプラットフォーム上で、障がいや病気のある人に向けて服のお直しサービスを展開する「キヤスク」を運営する株式会社コワードローブの知見を活かしたインクルーシブウェアを受注販売できるサービスです。

株式会社コワードローブでは、寝たきりで着脱が大変なお客様に合わせてTシャツをお直しするサービスもあります。

キヤスクのインクルーシブウェアの第一弾は、高齢者ではなく、車いす利用者を対象にしていました。

足に障がいがあっても着脱しやすくするために「腰から裾」または「腰から膝」まで開閉できるファスナーをパンツの両脇に取り付けています。さらに、「床ずれ」が発生しにくいように、体重により圧迫される部分の皮膚が傷つくのを防ぐため、臀部には縫い目を作らない設計されています。

2025年には、ZOZOは株式会社アダストリアと連携し、インクルーシブウエアの受注生産を拡大しました。

アダストリアは、2021年から子会社アンドエスティHDを中心に「Play fashion! for ALL」という取り組みを進めていました。

これは、年齢や体型、障がいの有無に関係なく、すべての人がファッションを楽しめる社会をつくることを目指した活動です。

「スタンダードを、変えていこう、広げていこう。」という理念のもと、アダストリアはファッションの可能性を広げる活動をしてきました。

社内公募から生まれたプロジェクトとして、障がい者雇用支援会社や各ブランド部門と連携し、車いす利用者や低身長の方、内部疾患をもつ方などが試着に参加し、着心地や着脱のしやすさを検証しながら改良を重ね、「誰でも着られる服」を現実の形にした経験があります。

このような経緯があり、2025年にZOZOと協業し、人気ブランド「LOWRYS FARM」で利用者の声を反映した「着やすい・着せやすいギミック(工夫)」を生産プロセスに導入しました。

デザイン性を損なうことなく、悩みを解決する機能を加えることで、「着たい」と「着られる」を両立しています

前面についたファスナーは裾の方まで開閉が可能なため、前全体が大きく開きます。介助が必要な方や車いすユーザーの方の着脱を便利にしました。

着用の際は、初めにウエストの固定ベルトを締める事で、ファスナーの開閉がスムーズです。

前のファスナーはフェイクで、左右の脚のファスナーだけで着脱できます。面倒なボタン掛けをしなくても良いので、ボタンを掛けるのに時間がかかる人にとっては便利な作りのパンツです。

これらの取り組みは、介護ウェアを「特別な服」ではなく、「誰もが着られる日常のファッション」へと進化させる大きな一歩となっています。

サイズ展開も豊富で、体型に合った最大69サイズから選ぶことが可能です。

身長・体重を1センチ単位で細かく選択し、自分にあったサイズのパンツをオーダーすることができます。

なぜ1点からの受注生産でも高額ではないのか(コスト構造の分解)

ZOZOの「Made by ZOZO」が注目される理由の一つは、「オーダーメイドなのに高くない」という新常識を生み出したことです。

その背景には、ファッションという「個性」を追求する業界にデジタル化と標準化を取り入れたことにあります。ここに、「Made by ZOZO」というプラットフォームに込められた長期的な戦略が見えます。

  1. 在庫コスト・値引き損の削減
    従来の大量生産は発注量を読めず、在庫保管費・廃棄・値引き(マークダウン)がコストを押し上げていました。受注後に作る「Made by ZOZO」は在庫リスクをほぼゼロにし、廃棄ロスも減らせます。その分を価格に転嫁せずに済みます
  2. デジタル連携×標準化で“小ロット効率”を実現
    ライン生産にタブレット指示や工程標準化を組み合わせ、複数デザインの同時並行生産にも対応。複数デザインを同時に生産しても無駄が出にくい体制を整えています。
  3. プラットフォーム集約による“スケールの経済”
    ZOZOTOWNの巨大集客と共通インフラ(決済・物流・CS)を活用し、受注・生産・出荷の固定費を分散できます。ブランド単独では割高になりがちなオンデマンド生産でも、横断のボリューム効果でコストを均すモデルです
  4. サイズ多様化を“追加在庫なし”で実現
    マルチサイズ展開(最大69サイズ)でも、注文があった分だけ生産するため、多様な体型に対応しながら在庫を持たずに済みます。

 

実際、前章でご紹介したローリーズファームのパンツは手頃な価格で購入することができます。これは、「誰でも着られるファッション」へのハードルを下げる仕組みと言えるでしょう。

まとめ|介護でもおしゃれを楽しむ時代

介護の現場には、「思うように動けない」「時間がかかる」「おしゃれを諦めた」こんな小さな我慢が積み重なっています。

けれど今、着せやすく・動きやすく・見た目も美しい服が作られるようになりました。

「前開きだからラクに着られる」「自分一人でも服を着れる」「色やデザインが明るい」こういったほんの少しの工夫が、介護する人とされる人の一日を明るく変えることができます。

ZOZOやアダストリアが取り組み始めた「インクルーシブファッション」は、単なる洋服ではなく、「誰もが自分らしく生きるためのサポート」の一つと言えるでしょう。

「着たい服を着て、楽しんでいいんだ」と感じてもらえるようなファッションが、少しずつでも社会に広まってゆけばよいと思います。

「前開きで着せやすいパンツ」等はキヤスク with ZOZO探せます。

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[参考資料]

障害あっても着脱しやすい服 ZOZO、1点から受注 アダストリアと連携、サイズは最大69通り

着替えやすい服を選ぶのがポイント!着脱介助をスムーズに行うコツ

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