介護施設では、夜間や休日に入居者の体調変化に適切に対応することが、常に課題となっています。
看護師が不在の時間帯では、介護職員だけで状況を評価し、救急搬送の要否を判断せざるを得ないケースも少なくありません。こうした場面では、判断遅延や過剰搬送の問題が指摘されています。
近年、こうしたギャップを補う仕組みとして、介護施設向けに特化したオンライン医療サービスが注目されています。
これは、タブレットやスマートフォンを通じて医師や看護師に即時相談できる体制を構築し、現場の判断を支援するものです。
介護と医療の間に存在してきた“空白領域”を埋める可能性があるサービスについて、実践例とその効果を本記事で紹介します。
- 介護施設での医療対応における課題
- 夜間・休日の緊急時、介護職員だけでは判断が難しい現実
- 医療機関との連携が難しい背景
- 介護施設に特化した医療サービス:ドクターメイト
- オンライン診療・相談という新しい支援方法
- 夜間対応を支えるオンライン医療チーム
- 認知症や精神科診療へのオンライン対応も
- 介護施設専用に設計された職員教育
- ドクターメイト誕生の背景と成り立ち
- 導入によるメリットと施設運営への効果
- 1.介護職員の負担軽減と離職防止
- 2.施設全体のリスクマネジメント強化
- 導入によるメリットと医療機関側への効果
- 医療機関側の負担軽減効果
- まとめ|介護と医療の間を埋める新たな選択肢
介護施設での医療対応における課題
夜間・休日の緊急時、介護職員だけでは判断が難しい現実
介護施設では、夜間・休日の緊急対応を介護職員のみで判断することは難しく、医療判断を誤るリスクが常に存在します。その結果、夜間の緊急搬送が増加しているという現実があります。
多くの介護施設では、夜勤帯に看護師が配置されておらず、バイタルサインの急変や転倒後の状態といった医療的な評価を介護職員が単独で行う必要があります。
症状の「見極め」が求められる場面は多いものの、医学的判断を伴う評価は専門職が不在の時間帯ほど難しくなります。そのため介護職員はマニュアルに沿って対応し、判断に迷った場合は救急搬送を選択せざるを得ません。

これは三重県の調査ですが、ほぼ9割近くの介護施設が過去1年に救急搬送を依頼しています。

出典「ケアニュース」シルバー産業新聞
2023年の厚労省・社会保障審議会 介護給付費分科会によれば、医師が不在時にどのような対応を取るかについて、夜間には「原則、救急搬送」と回答した施設が3割に上ります。
厚労省や自治体の調査では「夜間救急搬送の一定割合が、医師への事前相談があれば回避できた可能性がある」と報告されています。
これは、現場の介護職員が判断に迷い、緊急搬送を選択せざるを得ない状況が生じていることを示しています。
夜間・休日の医療判断は、介護職員の能力の問題ではなく、医師・看護師が不在という構造的制約が生む課題です。夜間・休日の介護現場の負担軽減には、外部からの医療支援の仕組みが不可欠です。
医療機関との連携が難しい背景
課題が明確であるにもかかわらず、介護施設が地域の医療機関と円滑に連携できないのは、医療・介護双方の慢性的な人員不足と、連携体制の仕組みが十分整っていないからと考えられます。
医師不足・看護師不足が続く地域では、医療機関が介護施設からの相談に応じる余裕は限られています。
介護施設側も、特に夜間や休日は、相談できる窓口や担当者が定まっていないケースも多いと言われています。仮に夜間休日の連絡先が決まっていたとしても、 介護施設側からは「連絡先が時間帯で変わる」「医師からの指示が得られるまでに時間がかかる」など、連絡体制の不統一が大きな障壁となっているとの指摘もあります。
もちろん、これは医療機関が手を抜いているわけではありません。外来業務や訪問診療で手一杯で、施設支援が後回しになりやすい構造が背景にあるからです。
医療機関は、医療の役割と業務を定めた医療法に則り運営されています。
医療法では、外来・入院医療を提供する義務、救急患者の受け入れ体制の整備義務が定められています。 救急搬送された重症患者は、法制度上「最優先で対応すべき対象」です。
また、医師法第19条では、医師には「患者からの診療の求めがあれば応じる義務」が定められています。
緊急外来や訪問診療で手一杯の医療機関は、介護施設からの「助言」「相談」「軽度症状の連絡」はどうしても後回しになりがちです。
医療機関の怠慢ではなく、役割分担がそのように設計されている制度的な問題です。
この構造により、介護施設は夜間の緊急対応で相談できる医療リソースがほとんどない状態に置かれています。
医療機関との連携の難しさは、現場の人的努力だけでは解消できず、医療アクセスの仕組みそのものの見直しが必要になります。
介護施設に特化した医療サービス:ドクターメイト
オンライン診療・相談という新しい支援方法
2018年3月の診療報酬改定で「オンライン診療」は保険診療として新設されました。当初は、継続的に診ている患者が対象で、初診からオンラインという形は原則認められていませんでした。
しかし、2020年の新型コロナウイルス感染症をきっかけに、2022年1月には指針が改正され、「初診からのオンライン診療」が制度化されました。
オンライン医療サービスは、夜間や休日でも必要な時に医師・看護師へすぐ相談できる体制を整え、現場の判断負担を大きく減らす新たなモデルです。
このサービスでは、スマートフォンやタブレットから医療専門職につながり、利用者の状態についてその場で相談できます。
ビデオ通話を使うことで、表情・皮膚の状態・呼吸などを直接見てもらえるのも大きな特徴です。
ここでは、介護施設に特化してオンライン医療サービスを始めた草分け的存在である「ドクターメイト」をご紹介します。
夜間対応を支えるオンライン医療チーム
ドクターメイトは、夜間の体調変化に備え、介護職員が医師・看護師へすぐにつながるオンライン医療チームを編成し、「看護師不在の時間帯」の大きな不安を解消します。
タブレットやスマートフォンを使い、夜間の緊急時に医療専門職へ即時相談できる体制を整えています。
利用者の状態をビデオ通話で共有できるため、介護職員だけでは判断が難しい「搬送の要否」や「応急対応の方法」について、専門家から明確な指示を受けることができます。
例えば夜勤中に発熱や転倒が起きた場合、介護職員はドクターメイトのアプリから医師につなぎ、利用者の状態を映像で見せながら相談できます。
医師は状況に応じて「今日は施設で様子を見るべきか」「緊急搬送が必要か」を判断し、適切な対応をその場で指示します。
看護師が常駐していない施設でも、夜間の医療判断に伴う職員の孤立した状態での判断を減らし、安全なケアを維持できます。
介護職員の精神的負担を軽減すると同時に、施設全体のリスクを減らす有効な仕組みとして機能します。
認知症や精神科診療へのオンライン対応も
ドクターメイトは、精神科・認知症領域のオンライン診療にも対応し、専門医が少ない地域の施設でも必要な医療につなげる仕組みを提供しています。
認知症ケアや精神科領域では、医療機関の不足や地域偏在が課題になっています。
ドクターメイトはオンラインで精神科医へ相談できる仕組みを整え、利用者の症状評価や薬の見直し、行動症状(BPSD)への助言を受けやすい体制を整えています。
また、単発の相談にとどまらず、継続的に状態をモニタリングすることで、ケア品質の向上にもつながります。
たとえば、認知症の行動症状が強くなってきた入居者に対し、オンラインで精神科医が状態を確認し、薬の調整や生活環境の見直しに関する助言を行っています。
介護施設にとっては安心の幅が広がり、医療機関にとっても効率的な支援が可能となる、双方にとって有益な仕組みといえます。
介護施設専用に設計された職員教育
介護施設向けの医療サービスは、相談窓口のみならず、医療に関するスタッフ教育まで含む支援体制として発展しています。
さらに、医療相談データを基に作成した介護・医療の動画コンテンツを用いた eラーニングで、職員のスキルアップを支える取り組みも行われています。
具体的には、 動画教材やチェックリストなどの教育コンテンツが用意されており、新人職員でも安心して緊急対応に臨めるようになります。
さらに、法定研修をマンネリ化させない内容の研修や、教育担当者・施設長にとって使いやすい受講管理サービスも提供しています。
このように、日中相談や夜間オンコール代行という外部委託のみならず、職員教育までを包括的に支援しています。
夜間・休日の限られた人数でも安全なケア体制を維持しやすくなる点が大きな価値です。
ドクターメイト誕生の背景と成り立ち
ドクターメイトは、現役医師が介護現場の課題を直接見て「医療と介護のすき間を埋める必要性」を強く感じたことから生まれたサービスです。
創業者は現役の皮膚科医師です。訪問診療や地域医療の現場で「夜間の介護施設では医療的判断が難しい」「医療機関につながりにくい」という課題に直面してきました。
この「空白領域」を埋めるために、オンラインテクノロジーを活用して介護施設と医療専門職をつなぐ仕組みを構想し、介護施設向けチャット相談サービス「日中医療相談」を2017年12月に開始しました。
サービス開始当初は日中の医療相談のみでしたが、2020年「夜間オンコール代行」サービスを開始しました。
その後、順調に事業を拡大し、オンラインで認知症に強い精神科医に相談できるサービス「精神科オンライン診療」、介護現場に必要な「医療知識」が身に付く学びを豊富に取り揃えた介護向けe-ラーニングサービス「Dスタ」など、サービス領域も拡大しています。
2025年9月には、 相談対応実績は累計150,000件以上、1,400を超える施設にサービスが導入され、全47都道府県でサービス導入を達成しています。
医療と介護の間にある課題を埋めるために生まれ、現場の需要を基に拡大してきたドクターメイトは、オンラインという新しいやり方で実用性の高い支援モデルとして全国に広がっています。
導入によるメリットと施設運営への効果
1.介護職員の負担軽減と離職防止
オンライン医療サービスの導入は、夜勤帯の心理的負担を大きく軽減します。とくに、医療判断のサポートにより職員が安心して夜間に働ける環境をつくることで、介護職員、特に看護師の離職防止につながります。
夜間の体調急変や転倒は、介護職員がもっとも不安を感じる場面のひとつです。看護師が不在の時間帯では、判断を一人で抱え込みやすく、精神的負担が蓄積しがちです。また、オンコールを受ける看護師側にも大きな負担がかかります。
夜間のオンコール負担を軽減することは、看護師の離職防止に大きく役立ちます。
オンコールの多さから看護師が離職し、採用にも苦労していた介護施設が、夜間オンコール代行サービスを導入した結果、看護師3名の採用に成功した事例もあります。

上記のように、看護職にとっては給与面よりも、夜間待機が少なく家庭と両立しやすい職場が求められていることがわかります。
それほど夜間のコールの頻度は就職する際の大きな心理的なボトルネックになっているのです。
オンライン医療支援は、介護職員や看護師が安心して業務に集中できる環境をつくり、結果として職場の継続性や離職防止にも寄与する重要な仕組みです。
2.施設全体のリスクマネジメント強化
オンライン医療サービスは、医療ミスの防止、記録の一元管理、家族への説明の根拠強化などを通じて、施設全体のリスクマネジメントを高めます。
体調急変時に専門家から即時に指示が得られるため、対応の遅れや誤った判断が減ります。
また、すべての相談内容や医師の指示が記録として残り、15分前後で相談レポートとして送られてくるため、監査対応や家族への説明にも活用できます。
夜間の判断記録がアプリに残るため、「なぜ搬送しなかったのか」「どの医師の判断だったのか」といった確認が必要なときも、記録を基に説明できます。
このような対応の履歴や記録は重要です。医療的な判断が裁判に発展するケースもあるからです。
平成28年5月に北海道の介護老人保健施設に入所していた70代女性が、誤嚥性肺炎などにより亡くなった事件では、遺族2名が損害賠償を施設側に請求しました。裁判所は、施設の医師に麻痺性イレウスを疑って転院させるべき注意義務の違反を認め、死亡を避けられた相当程度の可能性を侵害したことによる慰謝料約440万円の支払いを、施設側に命じています。
平成28年2月、特別養護老人ホームに入所していた94歳女性が、早朝に血圧低下・酸素飽和度低下など重篤な状態となり、その後亡くなった事件では、遺族が損害賠償請求を起こしました。第一審(甲府地裁)は遺族の請求を棄却しましたが、控訴審(東京高裁)はこれを覆し、「カルテ確認、酸素投与、必要なら病院への移送など適切な医療処置を検討・実施すべき義務があった」として、医師の義務違反を認め、176万円の慰謝料を認めています。
オンライン医療サービスや夜間オンライン当直のような仕組みは、専門職との相談・指示内容を客観的な記録として残せるところに大きなメリットがあります。
「誰が」「どの情報を見て」「どう判断したか」を後から確認しやすいという意味で、まさにこうしたトラブルのリスクを下げることができます。
また、医療チームの判断が一貫して共有されることで、日勤帯のスタッフも経過を把握しやすくなり、引き継ぎミスの防止にも役立ちます。
導入によるメリットと医療機関側への効果
医療機関側の負担軽減効果
オンラインで医師・看護師・介護職員がつながることで、介護現場の判断が正確になり、緊急搬送を必要最小限に抑えられます。
これは介護施設にとってだけでなく、医療機関側にとっても大きなメリットがあります。
体調急変時に医療専門職へすぐ相談できる環境が整うと、救急搬送が必要なケースと、施設内で経過観察すべきケースを適切に見極められるようになります。
結果として、「救急車を呼ぶ必要がなかった」ケースが減少し、医療機関側の負担軽減にもつながります。
夜間の発熱や転倒など、判断の難しい場面で、医師が映像を見ながら状態を評価し、「今日は施設で様子見で大丈夫」「すぐに受診を」と指示します。
これにより、介護施設からの救急搬送の頻度が抑えられ、救急外来の混雑や不要な検査・入院が減少します。
医療機関にとっては、重症患者への対応に集中しやすくなり、地域医療全体の効率化にも寄与します。
実際に夜間オンコール代行と日中医療相談を導入した介護施設では、救急搬送件数が年間12件から1件に減少したという報告もあります。
医師・看護師が夜間も判断に関わることで、「不安ならとりあえず救急搬送」というパターンから脱却することができます。
このように、オンラインによる医療と介護連携は、介護側のメリットと同時に医療側の効率化も実現できる仕組みです。介護施設の安心と医療機関の負担軽減が両立し、地域全体での医療体制をより健全に保つことにつながります。
まとめ|介護と医療の間を埋める新たな選択肢
介護施設での夜間対応や体調急変への判断は、介護職員だけで抱えるには大きすぎる負担です。
看護師不在の時間帯や、地域の医療資源が限られた環境では、どうしても孤立して判断せざるを得ない状況が生まれます。
オンライン医療サービスは、この課題を補うために生まれた新たな仕組みであり、医師・看護師・介護職員がつながることで、緊急対応の精度を高め、過剰な救急搬送を減らす役割を果たすことができます。
この効果は、介護現場の負担軽減だけにとどまりません。医療側にとっても、不要な緊急搬送や検査が減ることで、病床の適正な運用につながり、地域医療全体の効率向上に寄与します。
医療と介護のあいだにある距離をどのように縮めることができるか。これは今後の介護施設運営において避けて通れないテーマです。
オンラインによる医療サービスは、その答えのひとつとして確かな実績を積み重ねています。
[参考資料]
特養 医療対応力の強化、論点に 配置医不在時「救急搬送」3割
ドクターメイト、創業8年目で全国47都道府県にサービス導入を達成!「持続可能な介護のしくみを創る」ビジョン実現へ大きく前進
「将来の人材不足」に備え、ドクターメイト導入で働きやすい職場作り|特別養護老人ホーム
救急搬送件数が年間12件から1件にまで減少|特別養護老人ホーム
No.507「特別養護老人ホームの入所者が、容態急変後に死亡。遺族の請求を全部棄却した一審判決を取り消して、適切な医療処置を行うべき義務違反があったとして、慰謝料請求を認めた高裁判決」
