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R6年 BCP義務化:災害時の通信手段の確保について

公開日:2023.02.23
最終更新日:2024.12.19

2024年4月に、全ての介護施設・事業所に対してBCPの策定が完全に義務化されました。

BCP計画とは、Business Continuity Planの略語で、「事業継続計画」のことです。

ここではBCP完全義務化に至るまでの経緯と厚労省が定める自然災害BCPの作成のポイント、自然災害時の通信手段について、SNSを含んだ最新情報をまとめてみました。

介護事業におけるBCP完全義務化までの経緯

年月 概要
2021年4月 介護報酬改定において、全ての介護サービス事業者を対象にBCP策定を義務付け
2021年4月1日
~2024年3月31日
この3年間は完全義務化に至るまでの経過措置期間
BCPが作成されていなくとも罰則規定はなし
2024年4月 全ての介護施設・事業所に対してBCPの策定が完全に義務化
BCPが未作成であっても罰則規定はなし
義務化に伴って、BCPを未作成の場合は「業務継続計画未実施減算」がつくられ、介護施設と居住系事業所には3%の減算が適用
2025年4月 訪問系と居宅介護支援系にも「業務継続計画未実施減算」が適用され、BCPが未作成の場合、1%の減算が適用

2024年4月以降は、BCPの策定が完全に義務化されているため、万一運営指導において業務継続計画未策定が発覚した場合は、運営基準違反になってしまいます。運営指導の対象になり、従わなければ指定取り消しなどの行政処分もあり得ます。

ですから減算対象や運営指導の対象にならないためにも、まずはBCPを作成し、訓練またはトレーニングを行う必要があります。

多忙な中、最速の時間でBCP計画を策定するために、厚生労働省の指定するひな形を埋めて、机上訓練をトレーニングをやららなくては、という介護事業所も多いと思います。

しかし、厚生労働省が意味する介護BCPの本来の定義は、「①事業活動レベルの落ち込みを小さくし、②復旧に要する時間を短くすることを目的に作成された計画書」(出典:厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」)とされています。

つまり、被災時や緊急時であっても、影響を最小限にとどめながら可能な限り事業を継続する、早期復旧の準備をしておくために、それらを計画として備えておきましょう、ということです。

2020年頃のコロナ禍初期の混乱や、日本各地で頻発する地震や自然災害からの教訓を学び、いつやってくるか判らないパンデミックや災害に備えることが本来の目的です。

どうせ作るのであれば現実的なものを準備していただきたいと思っています。

[感染症、自然災害]BCPのひな形

BCPには、感染症対策と自然災害対策の2つがあり、どちらも策定して、必要な措置を講じ、従業者に対する周知、研修および訓練の実施、計画の見直しを定期的に行うことが求められています。

BCP という「文書」を作るための資料は資料ややり方は厚生労働省のホームページで動画で公開されています。ひな形やガイドラインも公表されているので、手間はかかりますが、事業所内の職員の方だけでも作成することは可能です。

厚生労働省  介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修

こちらのページに、介護施設・事業所における業務継続ガイドラインやドキュメントのひな形があります。

令和5年度 介護BCP策定支援セミナー

こちらは、BCP策定の方法を解説した動画の一覧です。入所系、通所系、訪問系、居宅介護支援系に分かれています。

 

BCPの作成、運用のポイント

令和6年3月の「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」の中身を見ると、かなり具体的かつ細かく書かれています。この自然災害編のガイドラインの中で述べられている作成、運用のポイントを要約すると、概ね以下のとおりです。

<1>正確な情報集約と判断ができる体制を構築
災害時の迅速な対応のために、予め意思決定者や担当者を決め、情報の集約、共有や伝達フローを整備しておくこと

<2>自然災害対策を「事前の対策」と「被災時の対策」に分けて準備
災害が来る前にできること(耐震固定や電源バックアップの確保等)を行い、被災時は初動対応として何をするか(利用者・職員の安全確保・安否確認等)人命安全や事業復旧のルールを徹底します。

<3>業務の優先順位の整理
被災状況に応じて、限られた職員・設備でサービスを継続できるよう、職員の出勤状況、被災状況に合わせた業務の優先順位を平時から整理しておきます。

<4>計画を実行できるよう普段からの周知・研修、訓練
BCPを実効性あるものにするため、関係者への周知や研修、訓練を行い、課題を見直しながら定期的に改善します。

これらのポイントを見ると、情報伝達に関わる事柄は非常に多いことに気付きます。

特に2の安否確認、3の職員の出勤状況の確認等は、災害からの迅速な復旧に直結します。平時から情報共有体制や、情報伝達フロー等を作り上げて慣れておくことが重要です。

BCPで使えそうな緊急時の通信手段

では、同ガイドラインに緊急時の通信・連絡手段について、どのように書かれているのでしょうか?

令和6年3月の「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」

 

固定電話や携帯電話が使えなくなる可能性があるから、複数の連絡手段で連絡がとれるように準備しておきましょう、とあります。PCメール、SNS等を例として挙げていますが、ではどうすれば良いのでしょうか?

いざという時に使おうとすると、普段から使い慣れている通信手段でなくてはなりません。

PCメールですが、最近はスマホ中心になっておりPCを持っていない方も多いので、いざという時に使えない人も出てくる可能性があります。

携帯メールは電話回線を利用するSMS(ショートメッセージサービス)は、災害などに強い通信回線と言われています。

ですので、

1)SNS LINEアプリ

2)SMS(ショートメッセージ)

3)災害専用スマホアプリ

あたりが、現実的なものになろうかと思います。

それぞれの特長について、具体的製品名とメリット・デメリットを解説します。

1.SNS|LINE

2024年初頭の日本のLINEのユーザー数は9600万人。スマホを持っている人なら、ほとんどの人が使っているアプリです。

デメリット
・事前にLINEグループを組んでき、ユーザ登録に時間がかかる。
・いざ災害が起きた時、自分の安否を自分で投稿しなくてはならない。
・既読スルーの人がいると状況把握ができない。
・既読マークがつくが、誰が既読したかまではわからない
・災害時にインターネットにつながらないと、使えない。

メリット
・無料で使える
・まず誰でもアプリをインストールしている
・多くの人はアプリの使い方は知っている
・掲示板的な使い方もできる
・災害時にも輻湊に強い

2.SMS(ショートメッセージ)|バンソウ緊急SMS

スマホのショートメッセージを活かした緊急通報サービスです。ショートメッセージもスマホを持っている人であれば、多くの人が使っています。SMSを活用した緊急連絡ができるサービスはほかにもありましたが、ここでは緊急時の対応に特化しているこのサービスを取り上げます。地震を検知してSMSを自動で送信してくれます。バンソウ緊急SMS

デメリット
・普通のSMSが登録した一斉送信はできないが、このサービスは登録した相手に一斉送信とが可能
・いざ災害が起きた時、自分の安否は自分で投稿しなくてはならない。
・災害時の輻湊に強い。
・既読マークがつかない。
・有料サービス(1〜30人までは1送信 15円 年間最低費用 5,400円)

メリット
・地震を感知し設定震度以上でSMSを自動送信
・届いたSMSに記載されているURLをクリックして、アンケートに回答する形で安否確認
・専用のアプリが不要
・まず誰でも使い方は知っている
・掲示板機能はある
・メッセージ到着率は非常に高い

3.位置情報共有・安否確認アプリ|ココダヨ

iPhone、Android双方に対応した災害専用アプリです。費用はかかりますが、毎月1日に「総合訓練」があり、疑似的に災害訓練の通知メールが送信され、災害時を想定してアプリの使い方に慣れる訓練ができます。いざ災害が起きた場合、自分の居場所を自動で通知してくれ、関係者の居場所がスマホの地図上で表示できます。災害時位置情報受信アプリ ココダヨ

デメリット
・事前にアプリをインストールする必要がある
・事前にユーザ登録に時間がかかる。
・災害時にインターネットにつながらないと、使えない
・既読マークがつかない
・有料サービス。(8人までは月額580円?)

メリット
・いざ災害が起きた時に、自分の居場所を自動で投稿してくれる
・関係者の居場所がスマホの地図上で自動で表示できる
・使い方はアプリを立ち上げるだけ
・職員の状況を把握する掲示板的な使い方もできる
・毎月1回、模擬的に災害訓練の通知メールが送信され、使い方に慣れることができる

 

通信回線の確保

1から3までのうち、2以外はインターネット回線が必須です。

2のショートメッセージは、電話網でテキストを送信するものですが、一般の音声通話が使うトラフィックチャネルとは別の信号線(シグナリングチャネル)を使っているので、災害時にはつながりやすいと言われています。

災害時につながるインターネットの確保のために、00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)は覚えておいて損はないサービスです。

これは、災害時の公衆無線LANサービスで、携帯3キャリアが協力してネットワークを相互に無料開放するものです。

携帯キャリアに関係なく誰でも簡単に使えます。

使い方は、スマートフォンのWi-Fi画面のネットワーク一覧から、00000JAPANを選んで接続するだけ。

事前登録も要らず、パスワードやメールアドレス登録などの認証なしで、すぐにつなぐことができます。利用時間や回数の制限もありません。

00000JAPANが利用できる場所は、主に普段、携帯キャリアのWi-FiやフリーWi-Fiが提供されているアクセスポイントが設置されているところです。事前にどこにいけば00000JAPANが利用できるのか、確認しておきましょう。

パスワードや認証などが必要ない分、セキュリティには十分気をつけなければいけません。
個人情報のやりとりは控える、ネットショッピング等には使わないなどの注意は必要です。

00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)ってなに? ~災害時の公衆無線LANサービス

 

マルチチャネルと電源確保

以上、1、2,3まで見ると、どれもメリットとデメリットがあり、絶対つながる連絡手段はないことがわかります。

1つの手段に依存することは危険です。

インターネットは万全かというと、稀にではありますが、SNSやメール等でも、平常時に使えなくなる障害は起きています。

ですので、最初に行うべき連絡手段、次に使うべき連絡手段と複数の方法を持つことが大切です。

また緊急時にGPSや地図表示を使うとバッテリーが予想以上に早く減ってゆきます。予備電源をどうやって確保するかということを事前に考慮しておきましょう。

訪問系の介護事業の場合は、小型でポータブルな予備電源を持ち歩くことも検討すべきかもしれません。

1~3いずれにおいても大切なことは、事前に連絡先情報を最新にまとめておいたり、グループを組んだりして準備しておくことです。

そして、いざという時に、この連絡先情報に、担当者がどこからでもアクセスできるようにしておくことです。東日本大震災時には、政府機関の方が事務所に出社できず、連絡が大幅に遅れたことを思い出しましょう。

まとめ

以上介護業界でBCP の策定の中でも通信手段に絞って実際的に大事なポイントに絞ってお話しさせていただきました。

記事を書きながら、知人のデイサービス管理者の方の、コロナ患者発生時のご苦労を思い出しました。

併設されている施設でコロナが発生する度に、管理者からご利用者宅に電話連絡をしていました。電話では、相手がすぐにつながらない場合が多いです。電話連絡だけで半日潰れることはざらにあったと言います。

とりあえず完璧は目指さずに形だけ連絡網を作っておけばいいという考え方もあると思います。

しかし、ここ数年、「100年に一度」級の台風や大雨が毎年降ります。地震はいつやってくるか分かりません。

どうせなら本当に意味のあるBCP 計画と役に立つ連絡網を作っていただきたいと思います。

職員間での連絡や安否確認も含めて、電話という時間がかかる通信手段ではなく、SNSやアプリ等、時間差があっても確実に届く連絡方法を事前に考えておくべくだと思います。

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