利用者様の認知機能を正しく把握したいけど情報が少ない。しかし、認知症のテストというのは利用者本人のプライドにも関わることなのでなかなか言い出しにくい
そんなお悩みをお持ちのケアマネジャーや介護事業所の方に向けて、従来のMMSE・長谷川式検査とは全く異なる最新の眼球運動を使った認知症検査について分かりやすくご紹介します。
新しい眼球運動検査は「テストを受ける」という形式ではなく、受診者にとって負担の少ない方法で行えるのが特徴です。
また、従来型検査の特徴やメリット・デメリット、さらには現在の認知症における早期発見が進みにくい課題についても解説しています。
本記事が、認知症の早期発見に少しでもお役立ていただければ幸いです。
- 認知症検査テストの重要性:家族と介護現場の両面から
- 高齢者本人・家族が検査を受ける意義
- 認知症検査MMSEと長谷川式の特徴
- MMSE(Mini-Mental State Examination)の特徴
- 長谷川式認知症スケール(HDS-R)の特徴
- MMSEやHDS-Rの課題
- 眼球運動を使った新しい認知症検査
- 眼球の動きを利用する検査の仕組みと開発背景
- アイトラッキング式認知機能評価法の長所
- アイトラッキング式認知機能評価法の短所
- MMSE・長谷川式・眼球運動検査の比較表
- アイトラッキング技術を用いた眼球運動検査の受診可能な診療所
- 現在の日本の認知症の早期発見の課題
- 認知症を早期発見できない理由
- 早期検査・早期治療のメリット
- まとめ:認知症検査における制度的な課題
- まとめ
認知症検査テストの重要性:家族と介護現場の両面から
認知症の検査は、高齢者本人やそのご家族にとっては「早期の気づき→治療・支援・生活設計」への最短ルートです。
また、介護事業所やケアマネジャーにとっては「適切なアセスメント → ケアプランの質向上、事故・入院の予防」の起点となります。
高齢者本人・家族が検査を受ける意義
厚生労働省が2024年に公表した推計によれば、日本には約443万人の認知症の方と、約558万人のMCI(軽度認知障害)の方がいるとされています。65歳以上に絞ると、認知症の有病率は12.3%、MCIは15.5%であり、両者を合わせると27.8%にのぼります。
つまり、65歳以上の高齢者が10人いれば、そのうち約3人が認知症またはMCIであるという計算になります。これは非常に大きな割合ですが、高齢化が進む日本の社会を考えればあり得る数字です。認知症は誰にでも起こり得る病気といえます。
認知症は、早期に診断されるほど対症療法や支援サービス、服薬管理、法的支援、さらには臨床試験への参加など、多くの選択肢を得やすくなります。早期発見は、ケアチームの構築や危機的事態の回避にも大きく貢献します。
日本でも早期アルツハイマー病の患者が対象ですが、認知症治療薬としてレカネマブが承認されました。「治療の選択肢」が登場した今だからこそ、早期診断の意義は従来にも増して重要になっています。
認知症検査MMSEと長谷川式の特徴
認知症の検査方法には様々な種類があります。ここでは、従来から広く用いられている代表的な2つの方法「MMSE」と「長谷川式」についてご紹介します。
いずれの検査も、検査者が口頭で質問し、受診者の答えを記録する形式です。
検査者には、検査手順を守り、被検者の負担を減らしつつ公平に評価する技術が求められます。検査結果の解釈も専門知識が求められるため、精神科医や臨床心理士、看護師など一定の訓練を受けた医療者が行うのが一般的です。
MMSE(Mini-Mental State Examination)の特徴
MMSE(Mini-Mental State Examination)は、1975年にアメリカで開発された検査で、認知症スクリーニングとして世界中の臨床と研究で標準的に用いられています。11問・30点満点、所要時間は5〜10分です。見当識・記銘・注意/計算・想起・言語などを評価します。
長所としては、国際的にもっとも普及している認知機能テストの一つであり、短時間で実施でき、繰り返し検査が容易という点が挙げられます。信頼性や診断精度についても多くの研究で検討され、カットオフ値(合否の境目)を23〜24点に設定することで、健康な人を誤って「認知症の疑いあり」と判断するケースが非常に少ないことが確認されています。
一方で短所として、教育歴や文化的背景による影響を受けやすい点が指摘されています。教育歴が高いほど点数が高く出やすいなど、系統的なバイアスが存在するため、年齢や学歴に応じた補正が求められます。日本の行政資料でも、MMSEは長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)に比べ、学歴・職歴による影響を受けやすいことや、翻訳版にばらつきがあることが指摘されています。
長谷川式認知症スケール(HDS-R)の特徴
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS)は、東京大学精神科の長谷川和夫先生らが、1974年に日本人向けに認知症のスクリーニングを目的として開発されました。
当時の日本には、認知症の早期発見に使える標準的な検査がほとんどなく、高齢者が多い地域でも診断の指標が統一されていませんでした。
その後、臨床現場での経験を踏まえ、1991年に改訂版「HDS-R」が作成され、現在広く使われている形式となりました。HDS-Rは9項目・30点満点で構成され、日本の臨床や介護現場で標準的に用いられています。
長所としては、日本人に適した質問内容であり、日常の言葉で答えやすく設計されている点が挙げられます。所要時間は5〜10分とされていますが、高齢者が受診する場合は回答がゆっくりになるため、実際には20分程度かかることもあります。また、厚生労働省はMMSEに比べて学歴や職歴の影響を受けにくい点を利点としています。
一般的なカットオフ(合否の境目)は30点満点で20点です。が、これはあくまでスクリーニング指標であり、単独で診断を確定できるものではありません。
一方で、MMSEと比較すると国際的な研究の蓄積は少なく、海外調査との直接比較や多言語環境での汎用性に限界があると指摘されています。
MMSEもHDS-R(長谷川式)も「短時間で広く使える」一方で、次のような課題があります。
- 軽度段階(MCI/ごく初期)の拾い上げ感度が十分でない
- 教育歴・文化的背景・心情(プライド)に左右される
- 専門医がいる病院や診療所が限られ、検査を受けにくい
その結果、受検の回避や受診の先送りにつながり、診断の遅れを招きやすい点が問題視されています。
MMSEやHDS-Rの課題
MMSEやHDS-Rは認知症診断のための「早く・広く使える大まかなふるい」と言えます。
その「ふるいの目」がやや粗いので、ごく初期の軽度認知症(MCI=もの忘れはあるが日常生活はほぼ自立)の小さな変化は、どうしてもすり抜けやすい——これが「軽度段階の拾い上げが弱い」主な理由です。
これにはいくつかの理由があります。
- もともとの設計目的の違い
MMSEやHDS-Rも、1970年代に、明らかに認知症が疑われる人を短時間で見分けるという目的で作られました。初期の微妙な変化を精密に発見することは想定されておらず、設問の内容も日付や場所の見当識、簡単な記憶、計算、言葉のやり取りといった大まかな領域に限られています。そのため、認知症初期に低下しやすい能力については問題数が少なく、見落としやすいのです。 - 人や状況に左右されやすい
学校教育に慣れている人や数字・言葉に強い人は、高得点を取りやすく、軽い不調があっても満点近くになることがあります。逆に、耳が遠い、緊張しやすい、日本語が苦手といった要因により、本来の実力以下の点数になってしまう場合もあります。さらに、検査環境(静かな部屋かどうか)や読み上げの速度、説明の丁寧さ、採点者のクセなど、実施方法によっても結果にばらつきが出る可能性があります。 - 継続して検査されない
長くても20分程度の短い検査は、その日の体調や緊張の影響を受けがちです。認知症の初期変化は長期的な観察で捉えやすいものの、単発の検査だけでは変化を見落としやすいのです。
こうした要因が重なり、軽度段階で認知症を発見することはどうしても遅れがちになります。実際、症状が出現してから診断に至るまでの中央値は12か月、若年性認知症では24か月という報告もあります。さらに、受診者自身が「認知症と見なされるのでは」という不安から受診や相談をためらうケースも指摘されています。
結果的に、病状の出現から診断確定までには大きな時間差が生じやすく、たとえ検査を受けてもMCIなど初期の小さな変化を逃してしまうという課題が残されているのです。
眼球運動を使った新しい認知症検査
ここでは、従来の液晶検査とは全く異なったアプローチの検査方法をご紹介します。
眼球運動を用いた認知症検査(アイトラッキング式評価法)は、短時間で高い客観性を備え、軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー初期などの「見逃されやすい段階」の異常を補足できる可能性があります。
眼球の動きを利用する検査の仕組みと開発背景
①アイトラッキング技術の概要
アイトラッキング技術とは、人の視線や瞳の動きを追跡・分析する技術であり、視線計測、視線追跡とも呼ばれます。人体に無害な赤外線LEDやカメラを用いて瞳孔の光の反射を検出し、瞳孔の位置や目の動きをデータ化します。これにより「何を見ているか」「どの順序で対象を見ているか」などを数値として記録・分析することが可能です。
この技術は、既にマーケティング分野、Eスポーツ、VR・ゲームなどで広く活用されています。認知症検査に応用する場合は、受診者が対象物を追う眼の動き(視線の移動経路・注視時間など)を記録・解析します。
では認知機能と眼球運動とでは相関関係はあるのでしょうか。
大阪大学医学部附属病院における研究では、健常者・MCI患者・認知症患者の計80名を対象に、従来法であるMMSEと「アイトラッキング式認知機能評価法」との比較が行われ、高い相関が得られたことが報告されています(Oyama, Takeda, et al. Scientific Reports 2019; 9: 12932)。
また、Tobiiなど海外のデバイスを使った研究では、アイトラッキングで読書タスク中の変化を捉えることができると研究で明らかにしています。読書課題中に収集された眼球運動特性は、ADアルツハイマー病患者を89.8%の精度で判定できるという報告があります。
②医療承認とサービスの現在
このアイトラッキングという技術を認知症診断に応用して、「アイトラッキング式認知機能評価法」を基にした「医療機器プログラム」を開発したのが株式会社アイ・ブレインサイエンスです。
同社は、世界初のアイトラッキング技術を用いた認知機能検査支援プログラムを開発し、アプリとしてライセンス展開しています。
このプログラムの画期的な点は、従来のように専用カメラやスクリーン、投影装置を必要とせず、タブレットの画面を眺めるだけで認知機能検査が実施できることです。さらに、結果の解釈に専門的な知識を要せず、誰でも客観的に認知症の検査結果を数値化できる点にあります。

アイ・ブレインサイエンスは、直接医療サービスを提供しているわけではありません。同社は製薬会社に認知機能検査支援プログラムをライセンス供与し、製薬会社が医療業界向けに販売承認を取得したうえで、認知症診断支援サービスを展開しています。
その最初の例が、大塚製薬株式会社が提供する神経心理検査用プログラム「ミレボ®」です。同プログラムは2025年1月に保険適用を取得しました。
これに対しiPadPro⽤認知機能評価アプリMIRUDAKEは、医療者以外の一般向けの認知症診断支援サービスです。介護事業、保険、健康保険組合等、認知機能の定量化・客観化を必要とする業界に対し、契約に基づいて直接ライセンスを提供し、認知症検査の実施を可能としています。
アイトラッキング式認知機能評価法の長所
①短時間ででき、高齢者にとって負荷が少ない
タブレット上で約3分間の画面を眺めて回答するだけで済みます。医師との対話や筆記の負担が小さく、難聴や緊張といったコミュニケーション条件の影響を受けにくいのが特徴です。検査を行う医師にとっても、従来検査に比べて所要時間を大幅に短縮できます。
②客観性の向上
視線データ・注視時間・視線移動経路などを数値化し、さらにAI・機械学習を活用することで、検査者の熟練度に頼らない定量評価が可能になります。
③早期発見の可能性
従来のMMSEなどでは捉えにくかった軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー型認知症の初期段階を判別できる可能性があります。
④高額な設備投資が不要
専用カメラやスクリーン、投影装置などは必要なく、タブレット端末にアプリをインストールするだけで、簡便に約3分間の検査が可能です。
アイトラッキング式認知機能評価法の短所
①普及段階での検証不足
現時点での研究は比較的小規模なものが多く、被験者数、年齢層の幅、病型の多様性、追跡期間などが限られています。アルツハイマー型認知症の初期と健常者の識別については報告がありますが、レビー小体型認知症や脳血管性認知症など、その他のタイプに対する汎用性や予後予測力については、まだ十分なデータがありません。
②「現場」での検証不足
在宅や介護施設など実際の現場で使用した際の使いやすさや動作環境の違いについては、検証がまだ十分に行われていません。
MMSE・長谷川式・眼球運動検査の比較表
これまでに用いられてきた認知症検査方法を比較した表は以下の通りです。
項目 | MMSE(Mini-MentalStateExam) | 長谷川式(HDS-R) | 眼球運動検査(アイトラッキング) |
開発国・時期 | 米国・1975年 | 日本・1974年(1991年改訂) | 日本・2019年開発2023年医療機器承認 |
検査時間(現場実態) | 10〜20分(耳が遠い・ゆっくり進めるとさらに長く) | 10〜20分(MMSEとほぼ同程度) | 約3分(視線計測) |
検査形式 | 問診・口頭・筆記 | 問診・口頭 | 口頭+タブレット上で視線計測 |
評価項目 | 見当識・記銘・計算・想起・言語 | 見当識・記銘・計算・言語 | MMSE相同性のある設問項目について視線挙動を評価 |
スコア範囲 | 0〜30点 | 0〜30点 | 独自スコア |
強み(長所) | 国際標準・臨床研究の蓄積が豊富 | 日本語・日本文化に適合・教育歴の影響が少ない | 短時間・非侵襲・客観性・MCI段階の早期発見に期待 |
エビデンス規模 | 国際RCT・メタ解析多数 | 国内中心・国際比較は限定的 | 国内でのエビデンス規模は少ない |
実施場所 | 病院・クリニック・介護施設・地域健診 | 同左 | 同左 |
実施者 | 医師・看護師・ケアマネ・研修を受けた介護職 | 同左 | 同左 |
従来型の認知症検査(MMSEや長谷川式HDS-R)も、アイトラッキング技術を用いた眼球運動検査も保険適用対象です。
保険診療として算定するには、医師の判断で必要と認められる場合であることが原則です。頻度については「同一患者に対し3か月に1回」などの制限が設けられています。
アイトラッキング技術を用いた眼球運動検査の受診可能な診療所
眼球運動検査を実際に受信できる医療機関はどこにあるのでしょうか。公開情報を検索しましたが、実際に受診できる病院・診療所のリストは公開されていません。
検索結果でホームページなどで見つかった医療機関は以下の通りです。
東京都 | 西六郷クリニック (大田区) |
「認知機能検査『ミレボ®』を導入」と公式告知。検査は約3分、保険適用の記載あり。 |
大阪府 (大阪エリア) |
耳原鳳クリニック (堺市西区) |
公式Instagramで「認知症の診療支援としてミレボを導入(保険適用)」と案内。※公式サイト本体の告知は未掲載。来院前に要確認。 |
名古屋市 (愛知県) |
こだまクリニック (名東区) |
「認知症の診療支援アプリ『ミレボ』の導入」と公式ニュースに明記。 |
眼球運動検査は、短時間(約3分)で、MMSE等と相関しつつ軽度認知症(MCI)の変化も捉え得る「新しい一次スクリーニング」と位置づけられます。
すでに医療機器承認・保険適用が整い、医療機関での導入も始まっています。。
今後、導入が進み、臨床データが蓄積されれば、在宅介護や地域健診、施設スクリーニングまで視野に入れた早期受診・早期支援のきっかけづくりをさらに後押しできるでしょう。
現在の日本の認知症の早期発見の課題
ではこういった新しいタイプの認知症検査ができれば、認知症の早期発見は進むのでしょうか。
残念ながら、そう簡単に進まないと思います。
現在でも、認知症疾患医療センターの整備は一定程度進んでいます。
認知症疾患医療センターとは、認知症疾患に関する診断・初期対応、身体合併症や行動・心理症状(BPSD)への対応、専門的な医療相談を行う都道府県知事等が指定する専門医療機関です。
2016年(平成28年)2月時点で、47都道府県と18指定都市に計336か所が設置されており、主に精神科を標榜する病院に併設されています。
しかし、認知症の早期発見には十分に結びついていません。その理由はどこにあるのでしょうか。
認知症を早期発見できない理由
①認知症への意識
受診者側は、「困ったら相談する」という傾向にあります。
しかし、認知症の場合は「困って初めて受診した時点」で、すでに症状がかなり進行しているケースが少なくありません。認知症という病気に対して、早期発見がどれぐらい重要なのかが十分に浸透していないのです。
さらに、多くのセンターが精神科病院に設置されているため、「精神科への受診」に抵抗感を持ち、早期段階で受診につながりにくいことも課題とされています。
②アクセス困難
認知症疾患医療センターは、地域によっては県内に2〜3か所しかありません。特に地方や山間部では交通手段が限られており、患者や家族にとって受診負担が大きく、早期発見・早期受診につながりにくい状況です。
また、運営する病院側からも「医師数の不足」や「対応エリアが広すぎる」など、アクセスの困難さが報告されています。
③初診までの待機期間の長期化
検査・診断を希望する場合でも、まずは地域のかかりつけ医や精神科の外来を受診し、そこから専門機関に紹介してもらうという流れが多いです。紹介先が遠い、予約が取りにくい、専門医が限られているといった要因により、初診までの待機期間が長くなりがちです。その間に症状が悪化したり、受診そのものがキャンセルになったりするケースも報告されています。
④センターに関する認知度不足
認知症疾患医療センターの存在や役割が十分に認知されていません。そのため、受診者が最初に相談する相談窓口である地域包括支援センターやかかりつけ医との連携が不十分となり、専門医への受診が遅れる要因になっています。
介護施設やケアマネジャーの中にもセンターの役割を十分に把握していない場合があります。厚労省が地域包括ケアシステムの中で連携強化を促進していても、「まずはかかりつけ医に相談」という流れにとどまるケースが多いのです。結果として、かかりつけ医、地域包括支援センターや介護関係者への周知・PR不足が、質の高い情報共有や連携の障壁となっています。
まして一般の受診者にとって、認知症疾患医療センターの存在自体が十分に認知されているかは疑問の残るところです。
これらの①~④の課題が複合的に影響し、認知症の早期発見を困難にしていると考えられます。
早期検査・早期治療のメリット
認知症を早期に発見し、ケアマネジャーが検査結果を計画的に活用することで、施設入所やBPSD(徘徊・妄想・興奮など)発症までの時間を延ばし、在宅生活の期間を長く維持できる可能性が示されています。これは本人・家族・介護現場・社会全体にとって経済的・心理的な負担軽減につながります。
英国におけるアルツハイマー病の早期評価と治療の経済的評価を行った研究によると、アルツハイマー病の早期評価に4,083ポンド、早期治療に2,402ポンドかかるが、施設ケア費用の削減で総支出は204,561ポンドに抑えられ、認知症評価・治療なし群の212,302ポンドより低くいと報告されています。
さらに早期治療を受けた患者群は、地域での生活期間が長くなり、重度認知症(MMSE<10)で過ごす時間を5か月以上短縮できました。この結果から、認知症の早期治療は健康状態の改善と費用対効果の両立が可能であると示唆されています。
仮に5カ月間も施設入所の遅らせることができるなら、介護家族の入所負担額は年間100万〜150万円以上の節約効果があることになります。認知症の早期発見、早期治療は、本人の安心感につながるだけでなく、家計や社会保障の両面でメリットになります。
このように、認知症の早期発見のメリットは大きいものと期待できます。しかし、認知症疾患医療センターが全国に整備されているにもかかわらず、アクセスの地域格差、認知度不足、紹介体制の複雑さといった制度面での課題が依然として受診へのハードルとなっています。
まとめ
認知症の検査には、長年用いられてきたMMSEや長谷川式のような従来型に加え、アイトラッキング技術を用いた眼球運動検査など、新しい技術が登場しています。
眼球運動検査プログラムは保険適用を得ており、導入コストや自己負担の障壁が低下し、初期症状を容易に判定できる環境が整いつつあります。
しかし、新たなスクリーニング方法が開発されても、その利用に至るまでには制度的な課題が横たわっているのも事実です。
今後は、健康イベントやアプリなど保険外で受けられるスクリーニングが増えることも期待されます。これらは正式な診断ではないものの、「気づきのきっかけ」として機能し、軽度の段階で受診・支援につながる可能性があります。
従来の検査は、「診断のための手段」でしたが、アイトラッキング技術を用いた新しい検査方法は、早期発見・早期対応による生活の質の維持という本来の医療・介護の目的に近づくために欠かせないと思います。
『早期発見→介護サービスの前倒し導入→在宅期間の延伸』という流れを作ることで、本人・家族・介護現場すべてに時間的・心理的余裕が生まれます。
今後は、地域住民・介護職・ケアマネジャーへの認知度向上と、診療機関・認知症センター・地域包括支援センター間の紹介ルート整備を進めることで、検査がより身近で実用的なものとなることが期待されます。
[参考資料]
脳の健康度計測アプリMIRUDAKE
認知症の診療支援に用いる 神経心理検査用プログラム「ミレボ®」の保険適用のお知らせ
株式会社アイ・ブレインサイエンス | Ai-BrainScience Inc.
Survey on the current situation for early diagnosis of dementia and contributing factors in Japan
Timely Diagnosis for Alzheimer’s Disease: A Literature Review on Benefits and Challenges
アイトラッキングでアルツハイマー型認知症を評価する4つの方法