介護の事業所は、どこも人手不足が深刻です。職員の採用にお悩みの方は多いと思います。
しかし、新しく採用しても、今いる職員の方が不満を持って辞められてしまっては元も子もありません。
そこで、まずは緊急で、勤務している職員の方の負担を少しでも減らすための「スポットワーク」という方法をご案内したいと思います。
スポットワークという形で、資格を持った職員以外でもできる業務を、外部の方にお願いすることができれば今働いている職員の方の負担も軽くすることができます。
本記事では、スポットワークとは何か、利用にあたっての注意点、通常の採用と何が違うのかについて解説していきます。
スポットワークとは
1時間単位で働けるスキマバイトのことです。昔でいう「単発バイト」です。
数時間〜1日単位の仕事に、スマホアプリやWebサービスを通じて、空き時間に仕事を探してその場で応募、すぐに働けるという新しい働き方です。
こういった働き方は増えています。
一般社団法人スポットワーク協会によると、2024年5月末時点でのスポットワーク登録者数は約2200万人に上り、2023年3月末の約990万人に比べると1年超で約2.2倍に拡大しています。
スポットワークの増加には2つの理由があります。
1つめは実質賃金の低下です。働き手1人当たりの実質賃金は、2024年5月まで実に26ヶ月連続のマイナスです。物価の上昇に給与の伸びが追い付かない中、賃金を補うために、スキマ時間で稼ぎたいという人が増えているのです。
2つ目は働く高齢者の増加です。定年退職後の収入を確保したい、社会との接点を持ちたい、働く方が健康には良い、シルバー人材センターよりも多様な仕事があるなど、高齢者がスポットワークに参加するケースが増えています。
スポットワーク:働く側のメリット
登録者数が右肩上がりのスポットワークですが、こういった新しい働き方は、求職者にとってどんなメリットがあるのでしょうか?
- 時間拘束がない
働く時間を自由に選択できる、というのが最大のメリットです。シフト提出はなく、自分が空いている時間ができたら、その空いた時間で気軽に単発バイトを入れることができる。面接も不要な場合が多いです。この自由さが、シフトに入りたくない学生や短時間なら働ける主婦の方には大きな魅力になっています。 - 即日払い
即日払い(即金)に対応している案件が多いです。「すぐにお金が必要」という場合にも、単発バイトで働けば、急な出費にも対応できます。 - 仕事内容を固定化されない
1つの職場に固定されず、色々な仕事を体験できます。基本的に人手不足の仕事場が多いですが、飲食、物流、イベントスタッフ、オフィスワーク、宿泊など多様な仕事を経験できるので視野が広がります。学生の方にはありがたい働き方です。 - 人間関係のストレスが少ない
1つの職場に固定されず、基本は「1回限り」の仕事が多いため、職場の人間関係に悩む必要がありません。仕事のストレスの多くの部分は、職場の人間関係が原因です。職場の人間関係のお悩みを経験している高齢者や主婦の方にとっては、大きなメリットとも言えるでしょう。
このように働く側には、いろいろなメリットがあります。
これを介護業界から見てみると、毎週・毎日固定した時間にはこれないが、短時間の空いた時間なら働ける人、介護という仕事に興味はあるが、自分にできるかどうか自信がないので試してみたい人に、リーチできる可能性があります。
もう1つ事業者側から見た場合のメリットがあります。それは、正式採用の前に、その方の人となりや、適性などを見ることができることです。短期間働く中で、お互いに「お試し」をすることができます。
雇用主側の注意点:雇用契約、労災、源泉徴収
さて、スポットワークは単発バイトなので、福利厚生や雇用保険や社会保険は、必須ではありません。交通費支給も必須ではありません。では通常の派遣社員や正社員の採用と、スポットワークとは何が異なるのでしょうか。
雇用契約について
スポットワークとは言っても労働基準法に則って行われています。
単発バイトを雇う企業(使用者)は、労働契約の締結に際し、労働条件を求職者(労働者)に明示することが義務付けられています。
多くのスポットワークサービスのプラットフォームにおいては、利用企業を代行して労働条件通知書を交付して、求職者が確認することができる機能が提供されています。
労働者の給与額が年間30万円を超える場合には、1月1日~12月31日に支払った給与について、翌年1月31日(土日祝日の場合は翌平日)までに給与支払報告書を作成し、提出する義務があります。提出先は、翌年1月1日時点に各労働者が居住する、それぞれの市区町村になります。
ですから、スポットワークサービスでは給与総額の上限が30万円以下に設定されており、同じ労働者が単一のスポットワークサービスを利用して同一企業へ就労する場合は、給与支払報告書の提出義務はありません。
しかし、同じ労働者が複数のスポットワークサービスのプラットフォームを利用して、同じ企業に就労した場合は、雇用する企業側が複数のプラットフォームサービス間で労働者の名寄せをし、労働時間・勤務日数・賃金額等を管理する義務が生じます。
労災について
労災保険は労働基準法上の労働者に対する企業の災害補償責任を社会保険化したものです。保険料は企業が全額負担し、個々の労働者の加入手続きは不要であり、雇用関係にあるスポットワーカーについても自動的に適用されます。
勤務中の事故による怪我などの対応は、雇用企業において適切に行う必要があります。
源泉徴収・年末調整について
スポットワーカーは「日雇い労働」に相当しますので、継続して2カ月を超えて支払う場合を除き、日額表の丙欄が適用され、1日当たりの給与が9300円未満の場合には源泉徴収は不要になります。しかし日給が9300円以上になる場合には源泉徴収を行う必要があります。
日額表の丙欄適用者は、継続して同一の雇用主に雇用されないという扱いのため、原則として年末調整は不要です。
一見、社会保険もなく、生活が安定しないスポットワークは、働く側にとって、正社員や契約社員と比べると明らかに不利なのに、登録者数は伸びています。
これは、正社員の副業でスポットワークをやっていたり、家族の扶養になっており社会保険がある方の登録者数が伸びているということが原因です。
ですので、一時的な助っ人をすぐに呼びたい場合は役に立ちますが、本格的に長期で採用したい場合にスポットワークの人を引き抜くというのはなかなか難しいかもしれません。
スポットワーカーを雇うには?
では、いざスポットワークの方に来て貰いたいと思った時に、どこにどうやってお願いすればいいのでしょうか。ここではおおよその費用感と具体的に運営しているスポットワーカーの仲介大手3社を紹介します。
スポットワーカー1人の費用感
ツナグ働き方研究所の2024年5月度の調査によれば、首都圏・関西圏・東海圏の3大都市圏のスポットワーカー平均時給は1,190円、通常のバイト時給より13円安いという結果が出ています。8か月後の2025年1月度のスポットワーク平均賃金は1,230円で、通常のアルバイト平均賃金は1,220円でした。スポットワークとアルバイトの平均賃金はほぼ同じ水準だと言えるでしょう。
仮に時給1200円で、昼時だけ3時間応援をスポットワークでお願いするとします。交通費500円をお支払するとします。
この時、スポットワークの仲介プラットフォームを使うといくらぐらいになるのでしょうか。
【利用料金例】
時給1,200円、交通費500円 3時間の仕事の場合
求職者への報酬 (1,200円×3時間)+500円(交通費)=4,100円
マッチング手数料 (4,100円×30%)+123円(消費税10%)=1,353円
合計:5453円
これは時給によっても異なりますし、利用するプラットフォームによっても料金が異なります。掲載料が必要だったり、振込手数料が必要だったり料金体系は異なります。
ですがマッチングの手数料はおおよそ30%前後というところが多いようです。
スポットワーカーへの支払
勤務した労働者への賃金の支払いをスポットワーク事業者が代行する機能を提供している場合があります。
これにより、労働者は勤務後、即日中に速やかに賃金を受け取ることができます。
働いたその日に現金が入るというのはスポットワーカーにとっては大変ありがたい仕組みです。プラットフォーム側は立て替えた分をまとめて、サービスを利用した企業に手数料を乗せて請求するという仕組みをとります。
マッチングしたスポットワーカーとのやりとり
マッチングしたスポットワーカーの方との事前のやり取りというのは、基本ありません。
労働条件の確認も、仕事内容も全てアプリかウェブ上で行い、履歴書の提出もなく、面談もありません。当日になって働く現場をスポットワーカーの方が訪問するというのが一般的なやり方です。
雇用した企業側からすると、マッチングした求職者の方が当日約束どおり来てくれるのかというのは、いささか不安ではあります。
プラットフォームによっては、求職者の質を担保するために、遅刻や欠勤したりするワーカーの方にペナルティのポイントを課すというようなところもあります。
求職者を雇う企業の方も、労働条件を丁寧に書いたり、交通費を出す等少しでもワーカーとのマッチング率を高める工夫が必要です。
主なスポットワーカーの仲介プラットフォーム企業
タイミー
2017年に創業。株式会社タイミーが行っているスポットワークのマッチングプラットフォームです。有料職業紹介事業とプライバシーマークを取得しています。
2024年2月時点で、登録者数は700万人以上、登録事業者数は98,000事業者以上に達しています。
勤務データ(事業者からの評価や直前キャンセル率)に基づき、勤務実績の優れたワーカーから先行公開されるシステムになっており、雇う企業は安心して、求人募集をかけることができます。
また、働きにきてくれたワーカーを、長期アルバイトとして無料で引き抜くことが可能です。その際、弊社への報告義務、紹介料等一切必要ありません。働いたワーカーには雇用した企業に代わって即日支払いを代行します。
募集をかけた後、24時間以内に70%以上の求人がマッチングしており、急な欠員や繁忙期にも高い確率でスポットワーカーを呼ぶことが可能です。事業者用のヘルプページも公開されています。
シェアフル
総合人材サービスのパーソルホールディングス株式会社とフリーランスのためのプラットフォームを提供するランサーズ株式会社が合弁会社「シェアフル株式会社」を設立、2019年に「スキマバイトアプリシェアフル」をサービス開始しました。
アカウント開設や求人広告の掲載費用は無料で、コストを抑えて始められます。
ExcelやPowerPointなど、パソコンスキルを持つ求職者が多く登録していることから、書類作成やデータ入力といったオフィスワーク系が得意です。
こちらのプラットフォームも、募集で来てくれたワーカーの方を、長期アルバイトとして無料で引き抜くことができます。また働いたその日払い、即払いも対応しています。
ショットワークス
2006年にサービス開始した、この業界では最も古いマッチングサービスです。創業当初は別の会社が運営していましたが、現在は株式会社ツナググループ・ホールディングスがサービス提供をしています。
1日~90日以内の短期のお仕事を募集できる短期・単発のアルバイト専門サイトです。
現在は登録者数が、400万人を突破しました。当日を合わせて求人直前(1日~3日以内)の応募率が83%です。
求人掲載をするには、月額の固定費用が1~3万円程度がかかります。応募者の詳細情報を閲覧すると料金が発生する仕組みです。ですから、応募が来ても、閲覧しなければ余計なコストがかかりません。
登録している会員は、比較的時間の融通が利きやすい学生(大学生・専門学生)やフリーターが約6割を占めています。数多いスポットワークの仲介サービスの中でも、高校生の会員登録が可能というの稀なサービスです。
上記3社以外にも、最近はメルカリハロ(MercariHallo)やLINEスキマニなどのウェブサービスの大手が新規に市場に参入して、利用者数を伸ばしています。
まとめ
コロナ以降の社会の変化や物価高騰に加えて、アプリやウェブというプラットフォームサービスのおかげで新しい働き方は増えています。
しかし、新しい働き方には、トラブルも付きものです。
スキマバイトといえども労働基準法が適用されることに変わりありません。
どのような登録者数が多いのか、求人掲載の費用等、細かな機能は、プラットフォームサービス毎に異なります。どのプラットフォームを使うのがよいのかも慎重に判断が必要です。
三大都市圏では、スキマバイトやスポットワークという働き方が少しずつ定着しつつあります。
関連法規や自社の内規を確認した上で、スポットで応援に来てくれる人に仕事をお願いするというのは現実的な方法になりつつあります。
[参考資料]
一般社団法人スポットワーク協会