PHSを今でもご利用の介護事業所は多いと思います。しかし、PHSというサービスは今後縮小していきます。
明日からPHSが使えないとしたら、どうしますか?
PHSの代替手段を探さなくてはなりません。
ここでは次世代の介護事業所内のコミュニケーションツールとして、インカムを考えてみたいと思います。
合わせてインカム選定するポイントと現時点でのおすすめサービスもご紹介します。
PHS終了?介護施設が今こそインカム導入を考えるべき理由
介護施設内での通信手段の現在
医療や介護の現場では、PHSが広く普及してきました。では、いったい国内でどのくらいの介護事業所で利用されているのでしょうか。残念ながら、詳細な統計を見つけることはできませんでした。
ですが、参考値として、2020年の厚生労働省の調査では、病院の約83.9%が院内PHSを導入していたと報告されています。
このことから、介護分野でも、PHSを使っている事業所は相当な割合に上るだろうと推定できます。
公衆PHSサービスは2023年3月末をもって終了しました。しかし法人向けサービスで小型の基地局を一定の敷地内に設置して利用する構内PHSは引き続き利用可能です。ですから、PHSが今すぐ使えなくなる、ということではありません。
では、これからも、ずっと使い続けることができるのでしょうか。
残念ながら、一部メーカーではPHS機器の新規製造を終了しています。今後故障が発生しても、修理対応が難しくなる可能性があります。
また、2007年以前に製造されたPHS機器(旧スプリアス規格)は、総務省の規制により将来、使用が制限される可能性があります。
構内PHSについては、音声品質の低下が懸念されています。これは、構内PHSといっても、公衆PHSの電波で同期信号をとることでクリアな音声通話を実現していたわけで、公衆PHSサービスが停止してしまうと、音声がクリアに聞こえなくなる、という問題が出てくる可能性があるのです。
このまま、新しいアプリケーションの拡張性がないPHSに継続投資するのか、スマホ等の別のコミュニケーションツールに切り替えるのか、選択しなくてはなりません。
いつまでに、という期限があるわけではありません。設備を更改するタイミングもあるでしょう。ですが、遅かれ早かれ代替手段の検討が必要になってきているのです。
インカムとトランシーバーの現状
PHSに代わる介護施設内コミュニケーションツールを探すといっても、事情はいささか複雑です。現実的な代替えとして思い浮かぶのが、インカムやトランシーバー、スマホあたりだと思います。
混同しがちな3つの代替手段の基本解説
どれも介護施設内で離れたところでやり取りできるという手段で、大きな違いはないだろうと思われるかもしれませんが、そうではありません。

根本的な違いは通信方式です。無線を使っているのがインカムとトランシーバー、インターネットプロトコル(IP)を使っているのがスマホIP電話です。
この通信方式の差によって通話が同時にできるか、通信距離などはほぼ決まってきます。
インターネットプロトコル(IP)を使っている場合、基本はWI-FIまたは携帯電話網が繋がればどこでも繋がります。また将来に向けての機能の拡張性も出てきます。
インカムという定義も曖昧
また、一口にインカムと言いますが、この言葉も業界によって意味するところが違います。
インカムというツールが、イベント会場、工事現場、病院、コールセンター等異なる業界で幅広く使われてきたからでしょう。
もともとインカムとは、ヘッドセットやイヤホンマイクを使って複数人で同時に通話できる特定の区域内に閉じた無線通信システムを指していました。
しかし、スマホに、周辺機器としてヘッドセットやイヤホンマイクを追加すれば、非常に安価に同じような機能を実現できるようになりました。ですので、イヤホンマイクのあるヘッドセットをインカムと呼ぶ場合もあります。

製品比較を行う時には、スマホの周辺機器としての言葉なのか、従来型の無線通信システムタイプのものを指しているのか、確認することも大切になります。
介護現場に求められる通信機能とは
では介護の現場に求められるコミュニケーションツールとして、どのような機能が求められるのでしょうか。
1)安定して通信できること
まず安定した通信を確保できることが最優先です。途中で通話かブツブツ切れてしまったり聞こえなくなってしまったりすると、緊急時などには事故やトラブルに繋がります。
ここで気をつけたいのは、安定した通信を確保したい範囲です。介護施設の場合、隣接する建物が同じ系列の介護の事業所だったりすることもよくあります。また送迎などで移動する職員と連絡を取りたいという場合もあるでしょう。どこまでを安定した通信を確保する範囲とするかというところがポイントです。
2)ハンズフリーで通話できること
これはおそらく必須だと思います。現場の職員にとって、トランシーバーのように、話をするために片手がふさがってしまうというのは、かなりの負担です。常に両手が空いている方が、歩行の見守りや入浴介助には便利なことは言うまでもありません。
3)スタッフ全体でグループ連携ができること
複数人で会話がやり取りできること、もしくは1人の人から一斉に通知ができることというのは介護現場ではとても便利な機能です。新人の教育や業務の引き継ぎなど、その場で伝えることができれば、チーム間での連携もよくなります。
同時通話が介護現場にもたらす4つのメリット
実際にインカムなどを導入した事業所で、導入メリット等を見てみますと、技術的な内容よりもやはり圧倒的に複数人における同時通話ができることのメリットが大きいように思います。
1)業務の効率化
インカムを導入した介護施設では、職員間の連絡がスムーズになり、業務効率が向上した「社会福祉法人敬愛会」様の事例があります。(※1)こちらでは、定員80名の施設で、インカム導入により1ヶ月あたり105時間の業務時間削減が実現したという報告がされています。これは職員間の連絡が素早く、蜜になることにより、人探しの時間が減り、不要な移動時間が減ったことによる効果が大きいと言われています。
例えば「◯◯さんを見かけた方は応答ください」と話しかけるだけで、その方の場所を知る人が「◯◯さんは事務室にいますよ」と教えてくれます。PHSの場合は1対1の通話なので、こうはいきません。誰かを探すだけでも、いちいち電話をかけなければいけません。
音声をそのままテキストとしてログとして残すことができるサービスも登場しています。誰がどのようなケアをしたのかということを音声として記録できれば、記録そのものを手入力する手間を減らすことができる可能性もあります。
※1:社会福祉法人敬愛会での事例 https://comimi.jp/archives/column/kaigo-intercome
2)緊急時の即応性
転倒事故や様態の急変時に、職員間で迅速に情報共有ができます。大声で他の職員を呼んで利用者様を驚かせることも少なくなるでしょう。
夜勤時にトラブルがあっても、その場を離れず静かにヘルプを呼ぶことができます。今すぐ手伝ってほしいという時にも、その場で一斉にコールをして誰かを呼ぶことができます。入浴介助をしながら「もうすぐ終わります」と連絡すれば、順番待ちの時間短縮も可能です。
3)スタッフのストレス軽減と安心感
いつでも先輩職員に連絡できるため、新人職員の心理的負担はかなり減ります。心理的負担が減れば、先輩職員とコミュニケーションをとれて安心感が生まれ、新人の離職率低下も期待できます。目の前の業務だけでなく他の人が行っている業務や指示も聞けることから、仕事の流れも早く掴めるでしょう。
介護施設でのインカム活用事例
もう1つ、インカムを導入して、情報共有を効率化した例として、社会医療法人寿量会通所リハビリテーションセンター清雅苑があります(※2)
こちらでは、6か月間の期間を設け、導入前調査、インカムのレンタル導入、導入後の運用効果測定という3つの段階を設けて、職員間の情報共有がどのように変わったかを検証しました。運用効果は、タイムスタディ調査とアンケート調査の双方で確認しています。
タイムスタディ調査では、入浴業務や送迎時の利用者受け入れにおける直接的な時間短縮は、大きな数値として表れませんでしたが、職員間の情報共有に費やす時間が、1日あたり6.6分削減されました。
しかし、アンケート調査からは改善効果がはっきりと確認されました。「情報共有が早くなった」「待ち時間が減少した」と回答した職員が9割以上に上り、特に「現在の利用者受け入れ対応がスムーズになった」と実感している職員が8割以上を占めました。
これは、送迎時の利用者受け入れ時のタイミングをインカムで共有できたことが大きな理由です。
インカム導入前は、送迎車がいつ着くのかわからないため、各職員が準備をして玄関で待機する時間がありました。しかし、インカム活用により、到着直前に連絡できるようになり、「何人玄関に来てほしい」等の必要な連絡がスムーズになりました。
施設内のスタッフも、無駄な待ち時間がなくなり、タイムリーな受け入れ準備が可能となり、効率的な対応につながっています。
※2:清雅苑での情報共有の事例 https://voyt.com/column/column22/
インカム?スマホ?選定のポイント
繰り返しますが、PHSは今後使い続けることができない状況になっていて、何らかの代替を考えなくてはいけません。
介護事業所で要求されることは
1)安定して通信できること
2)ハンズフリーで通話できること
3)スタッフ全体でグループ連携ができること
でした。ではこれらを実現するために、一体どの機器を選べば良いのでしょうか。現在のところは無線を活用したインカムか、クラウド型のスマホIPあたりが候補になることでしょう。
具体的に製品の選ぶ際のポイントとして、まずどこを見れば良いのでしょうか。
使用環境と通信距離
安定した通信が実現できるかということをまず確認しましょう。立地や建物など環境によって通信の状態は大きく左右されます。
通信方式が無線形式を使っているものとIP(インターネットプロトコル)を使っているものとに大きく分かれるというお話をしました。
無線の場合、市街地でも約500m~1km、建物ならば約10~20フロアは通信可能ということ言われていますが、これも送電線の近くなのか、鉄筋コンクリート建物内なのかによって実際に安定して使えるかどうかは大きく変わってきます。
IP(インターネットプロトコル)を使ったものも、事業所内のWI-FIの設備や、機器の配置によって通信状況は大きく異なります。万一WI-FIの電波が届かないところであっても携帯電話網で補ってくれるとは言いますが、都市部でも携帯電話が圏外になってしまったり、駅から離れた山間部では電波が届かないということはよくあります。
必ず実際の製品をレンタルしてもらい、利用する現場で確認するようにしましょう。
バッテリーと充電スタイル
一般的な介護施設のシフト(早番・日勤・遅番)は8~10時間が基本です。そのため、予備バッテリーなしで1つのシフトをカバーできるだけの持続時間が必要です。最低でも10〜12時間持続して使えることが必要です。
遅番が伸びたり、夜勤者が使う場合や、充電忘れをする職員もいることを想定すると、理想的には、丸1日余裕で持つ機種が理想でしょう。
充電方式も、専用充電スタンドがあって、本体を置くだけで充電できる機種が、シフト交代時にも便利で、管理が楽です。充電ミスも減ります。
スマホの周辺機器としてインカムがついているものは、スマホ本体ごと充電しなくてはいけません。スタンドのないものはUSBで充電する形式になります。ずっと使い続けるわけですから、1日持たないこともあります。モバイルのバッテリーを準備する等対策が必要です。
ナースコールとの連携性
自分たちの事業所にナースコールがすでに入っている場合、ナースコールの通知をインカムで受信できるかどうかは、大事な確認ポイントです。ナースコールとの連携ができない場合、ナースコール専用端末と、インカムの2台持ちになってしまい、現場の利便性が損なわれることもあるからです。
一括管理・拡張性
本部や管理者が、施設にある全部のインカム・スマホ端末を、まとめて設定したりアカウント管理したり、不具合対処ができるようになっているのが理想です。
小規模施設の場合、この管理負荷はそれほどでもありませんが、1つの敷地内に多数の施設がある法人の場合、個別に管理するのはかなり大変になってきます。
施設増設やスタッフ増員があったときに新しい端末やアカウントを簡単に追加できるかという点も確認が必要です。
職員やスタッフの退職・入社が多い業界なので、すばやく端末設定を追加、更新できないと現場が混乱します。
導入・維持コスト
最後に、最も大きな選定ポイントは価格です。インカムはAmazonやモノタロウでも購入できますが、1台5,000~30,000円程度と、かなり幅があります。施設が大きい場合、通信網を整備するための費用も必要です。
最初に、コミュニケーション機器を何年使うのかということを考えましょう。
介護事業所でのインカムやコミュニケーション機器は、「通信機器」扱いで耐用年数は原則6年です。ですので6年間通して使った場合、高いのか安いのかという比較をする必要があります。
スマホIPでクラウド型の場合、月額費用が安く見えますが、6年間継続して使う前提で計算すると、クラウド型の方が高くなるということも、十分にありえます。
初期費用を計算する場合は、本体価格だけでなく、周辺のアクセサリ等も計算に入れるようにしましょう。周辺のアクセサリとはスマホの場合、イヤホンマイク、交換用バッテリー、充電スタンドなどのことです。これらは本体とは別売の場合が多いです。
年間の保守費用も確認が必要です。特に無線機系のインカムや、構内に通信制御機器を置いた場合、「年額保守料」が必要な場合もあります。かつ故障が出た時の対応費用が別になっていることもあります。
最後に大事なことは、インカムやスマホIPであれ、選定するコミュニケーション機器が補助金や助成金の対象になっているかどうかという点です。
インカムやスマホIPを使ったコミュニケーション機器は、IT導入補助金、介護ロボット導入支援などの対象になる場合があります。うまく補助金を使えば初期費用の1/2〜2/3も補助が出ます。もし、似たような機器があるのであれば、補助金の対象となっている製品を優先して検討すべきでしょう。
介護施設向けのインカムおすすめ2選
ジーコム株式会社「スマートインカム」(専用無線機タイプ)
1992年から医療用のナースコールシステムを作っている会社です。
「自社開発&国内製造」で長期供給と高信頼性を確保し、無線ネットワークシステムを自社開発してきました。
ジーコムのスマートインカムは、介護施設専用に開発したインカムです。骨伝導技術を採用し、耳をふさがずに周囲の音も聞き取れる設計になっています。
ナースコールシステムと連動で、呼出通知・インカム・居室間通話などあらゆる通話を管理できます。4つのボタン(電源、音量ボタン除く)を搭載することでナースコール、インカム、連携システムを操作できるようにしているため、スマホを出して操作しなくともスムーズなコミュニケーションを実現することができます。
音声読み上げ機能で居室からの呼出にもハンズフリーで対応でき、両手を使いながら作業を止めずに情報共有がスムーズに行えます。
ジーコムのホームページ上に、ICT導入補助金やロボット補助金などを活用した導入事例もあります。
端末価格は非公開ですが、通信料やパケット費が発生しないため、ランニングコストは不要です。ただし、長期使用に際して、電池式のセンサー等はじめとした消耗品、万が一故障した際の修理費などはかかります。
Buddycom(バディコム)
Buddycom(バディコム)は、株式会社サイエンスアーツが運営するライブコミュニケーションプラットフォームです。
「フロントラインワーカーの未来のDX」を掲げて、音声グループ通話ができる次世代トランシーバーアプリ(SaaSサービス)を提供しています。
従来の無線機やインカムとは一線を画し、高音質で、音声テキスト化や映像配信など、デジタルならではの機能がある新しいコミュニケーションツールです。
SaaSサービスなので、インターネットに接続できる環境だけを整える必要はありますが、自分たちの自社構内に特別な通信設備PBXや制御装置を設置する必要がありません。
運輸、建設、小売、宿泊サービス業など介護福祉の業界以外でも広く利用されています。
料金プランは初期費用は無料で、最低料金プランは月額660円(税込)からです。
ただし、スマホやイヤホンマイクは別途用意が必要です。
こちらも、軟骨伝導ヘッドセットが新発売されました。が、スマホの周辺機器となるので、スマホを常に持ち歩く形になります。ヘッドセット以外にも、ノイズキャンセリングなどの周辺機器が豊富に揃っています。
既に介護施設への導入実績も多数あり、業務効率化に貢献しています。ホームページに導入事例が多数掲載されています。
他の業界も含めると利用企業導入企業数1000以上継続率99.6%を誇っています。
音声をテキスト化することができるので、シフト交代時の申し送り事項の記録が簡単になったり、大切なことを備忘録として使えることにより記録漏れ防止につながっています。
ナースコールや見守り機器との連携も可能です。インターネットで外部との通信も可能であるため、送迎車到着の情報共有にも利用できます。
まとめ
いかがでしょうか。
介護施設のインカムやIPスマホは、PHSの代替というだけではなく、業務改善ツールであり「次世代の標準設備」と捉えていただくべきだと思います。
導入は早めの検討の方が良いでしょう。前述の通りPHSはサービスを縮小していますので、もし故障などがあった場合に対応してくれなくなる可能性があります。
もう一つは補助金の申請のタイミングは限られているので、事前に検討しておかないと、補助金申請期間に間に合わなくなる可能性があるからです。
IPスマホやインカムの機能もどんどん進化しています。無料トライアルやデモ活用で自分たちの事業所の規模にあった最適機器を見極めてください。
[参考資料]
https://www.ekaigotenshoku.com/ekaigowith/2022/11/09/kaigo_income/
https://www.gcomm.co.jp/faq/1406/