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生成AIを活用した介護レクリエーション:残念なポイントと秘めたる可能性

公開日:2024.09.26
最終更新日:2024.09.26

日経新聞で、素晴らしい記事を見つけました。

生成AIを使った介護のレクリエーションです。

オンラインでのエンターテイメントとしてオンライン落語というのは私も実際にやったことがあります。

みんな一緒にスクリーンを眺める、という行動はオンラインでのエンターテイメントと同じです。

しかしエンターテイメントの場合は、リアルで無料のボランティアの方が訪れてくださる事業所も多く、有名なアーティストや著名な体操講師等、「その人でなくてはならない」コンテンツ以外は、やはり広がりを欠いているように思います。

その点、この生成系AIを使って昔の写真を再生するレクリエーションは大変面白い試みだと思いました。

コンテンツをどのように集めたのか、どのようなツールを市販のAI生成ツールを使われたのかなど詳しく調べてみました。

生成系AIを活用したレクリエーションの実証実験

このレクリエーションは生成AIの利活用という目的で、NTT東日本、立教大学、介護事業者であるフロンティア、豊島区が産学官連携して介護・福祉関連AIを検討し、開発・社会実装をめざす「介護AIプロジェクト」として行ったものです。

「笑顔創出の循環」をめざす取り組みで大変素晴らしい試みだと思います。

フロンティアに入居者されているご利用者様およびそのご家族を対象に、生成AI等を活用し、古い写真をカラー化・高解像度化・動画化して楽しむレクリエーションを実施しました。

報道ではわからなかったポイントを、窓口である東日本電信電話株式会社東京北支店に電話してお尋ねしたところ、親切に答えていただきました。

コンテンツの準備

コンテンツは、今回協力した豊島区が古い写真資料などを提供しました。

豊島区の昔の市電の写真など、かつての豊島区の風景がたくさんあったのだと思います。

豊島区界隈に昔から住んでいる方にとっては、若かった頃の懐かしい風景が、動画になって甦るというエンターテインメントです。

生成系AIの活用

このような古い写真を使って生成系AIを使って再生するという仕事は立教大学大学院人工知能科学研究科のご協力がありました。

このエンターテインメントコンテンツを作るのは具体的には3つのステップがあったそうです。

①画像高度化
昔の写真は画質が荒いことが多いので、まず画質を補正し、デジタルに耐えられるような高品質にするという工程です。この画質の高度化に生成系AIを使いこなす

②彩色
生成系AIで、写真から濃淡からAIで推定して自然な色をつけます。

③画像編集
最後にカラー画像として甦った昔の写真を、動画の形式に編集します。

生成AIツールは市販のものを活用とのお話でしたので質問させていただきましたが、残念ながらまだご回答いただけていません。

レクリエーションの評価

時間にして30分程のレクリエーションの時間を作っていただき、5~6人が一つのグループでディスプレイを囲んで懐かしの動画を鑑賞するレクリエーションというのを体験していただきました。

ご利用者様の反応はどうだったでしょうか。

通常のデイサービスですと、内容がつまらないとご利用者様が帰ってしまったり、寝てたりするような方が散見されるそうです。

しかし今回のレクリエーション動画は、そのような人がおらず、小さなグループの輪の中で「昔はこうだった」と懐かしみながら、話が弾んだそうです。

過去の思い出や体験を振り返ることで、脳の活性化を図る回想法という療法がありますが、それに通じるものがあるのではないかと、デイサービスの方が仰っていたとのことでした。

総じてご利用者様の反応はとても良かったということです。

残念なポイント

懐かしの映像を生成AIで再現するという素晴らしい取り組みだったと思います。

しかし、コンテンツが素晴らしかっただけに、ディスプレイのサイズが小さい点は気になりました。

パソコンの画像を大きなスクリーンに出すだけでかなり違います。

スクリーン代わりにプロジェクターを使って、白い大きな壁面に映し出すでも良いです。

部屋の大きさにもよりますが、スクリーンとの距離を2~3メートルとって引いてみるとかより映像を楽しめます。

スピーカーもパソコンから取ることができます。

映像を使ったエンターテイメントというと大げさに聞こえますが、オンライン落語を実施した経験から、これらは、市販のツールで十分に可能でした。

ちょっとした工夫があると、このエンタメはもっと感動を呼べると思います。

まとめ

過去の映像は高齢の方にとっては、素晴らしいエンタメ素材だと思います。

高齢者の方が若かった時代の画像を蘇らせることができ、見知らぬ方同士で話をするきっかけができるからです。

生成AIで再生された過去のデジタル映像というのは、歴史の重みがあるせいか、アニメやCGで創作された映像よりも説得力があります。

YouTubeで、1900年代のパリやニューヨークの街角の映像等が生成AIで再生されたものを見ることができます。ほぼ100年前でも街角の様子が、現在の日常とそれほど変わらないことに本当に驚きます。

それに比べて、上海の街路、江戸城近くの風景は、本当に大きく変わってしまっています。

戦後すぐの東京の街を生成AIで再生されたものを見ると、両親の世代のころの東京の街と我々が生きている東京が同じ場所とは思えません。

ご高齢の方にとって、自分が生きてきた時代を振り返るというコンテンツはご高齢の方へのエンターテイメントとして素晴らしいのではないでしょうか。

静止画がAIで動いたり色がついたりして蘇ったりすれば、より素晴らしい映像体験になると思います。

古い画像素材を探すのが大変ですが、こういったレクリエーションがこれから増えていくと良いと思います。

参考資料
特別養護老人ホームにおける生成AIを活用したレクリエーションの実施~産学官連携実証、介護AIプロジェクト2024~
https://www.ntt-east.co.jp/tokyo/info/detail/1287919_2608.html